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にわたるとて。いつゝばかりなるちごどもなどして。あはれなりつる心のほどなんわすれん世あるまじきなどいひて。梅の木のつまちかくていとおほきなるを。これが華のさかんおりはこんよといひをきてわたりぬるを。心の內に戀しくあはれ也とおもひつゝ。しのびねをのみなきて。その年も歸りぬ。
たのめしを猶や待へき霜枯し梅をも春はわすれさりけり
といひやりたれば。あはれなることどもかきて。
なをたのめ梅の立枝は契をかぬおもひの外の人もとふ也
その春世中いみじうさはがしうて。まつさとのわたりの月かげ。あはれに見しめのとも三月ついたちになく成ぬ。せんかたなく思ひなげくに。物がたりのゆかしさもおぼえずなりぬ。いみじくなき暮して。みいだしたれば。夕日のいとはなやかにさしたるに。さくらのはなのこりなく散みだる。
散花も又こん春はみもやせんやかてわかれし人そ戀しき