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Page:Gunshoruiju18.djvu/389

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にわたるとて。いつゝばかりなるちごどもなどして。あはれなりつる心のほどなんわすれん世あるまじきなどいひて。梅の木のつまちかくていとおほきなるを。これが華のさかんおりはこんよといひをきてわたりぬるを。心の內に戀しくあはれ也とおもひつゝ。しのびねをのみなきて。その年も歸りぬ。いつしか治安元年イ梅さかなんこむと有しを。さやあるとめをかけてまちわたるに。花もみな咲ぬれどをともせず。おもひわびて。花を折てやる。

 たのめしを猶や待へき霜枯し梅をも春はわすれさりけり

といひやりたれば。あはれなることどもかきて。

 なをたのめ梅の立枝は契をかぬおもひの外の人もとふ也

その春世中いみじうさはがしうて。まつさとのわたりの月かげ。あはれに見しめのとも三月ついたちになく成ぬ。せんかたなく思ひなげくに。物がたりのゆかしさもおぼえずなりぬ。いみじくなき暮して。みいだしたれば。夕日のいとはなやかにさしたるに。さくらのはなのこりなく散みだる。

 散花も又こん春はみもやせんやかてわかれし人そ戀しき

またきけば。侍從の大納言の御むすめ權大納言記云三月十九日卯刻病者氣絕悲哀之甚不知所爲四月九日觀隆寺北地なくなり玉ひぬ也。殿の中將長家おぼしなげくなるさま。わがものの悲しきおりなれば。いみじくあはれ也ときく。のぼりつきたりし時。これ手本にせよとて。此姬君の御てをとらせたりしを。小夜深てねざめざりせばなどかきて。鳥へ山谷に烟のもえた[ゝイ]ははかなく見えし我としらなむと。いひしらずをかしげにめでたくかき玉へるを見て。いとゞ淚をそへまさる。かくのみ思ひくんじたるを心もなぐさめんと心ぐるしがりて。はゝ物語などもとめてみせ給ふに。げにをのづからなぐさみゆく。むらさきのゆ