Page:Gunshoruiju18.djvu/387

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むもしらず。さもよしなしごとをのみとうちむづかりて。み帳の內にいりぬとみても。打おどろきても。かくなん見えつるともかたらず。心にも思ひとゞめでまかでぬ。はゞ一尺の鏡をいさせて。えゐてまいらせぬかはりにとて。そうをいだしたてゝ。はつせにもうでさすめり。三日さぶらひて。此人のあべからんさま。夢にみせ玉へなどいひてまうでさするなめり。そのほどは精進せさす。このそうかへりて。夢をだにみでまかでなんがほいなきこと。いかゞ歸りても申べきと。いみじうぬかづきおこなひてねたりしかば。御帳のかたよりいみじうけだかうきよげにおはする女のうるはしくさうぞき玉へるが。たてまつりしかゞみをひきさげて。此かゞみにはふみやそひ扶たりしととひ給へば。かしこまりて。ふみもさぶらはざりき。此鏡をなんたてまつれと侍しとこたへたてまつれば。あやしかりける事かな。ふみそふべきものをとて。此鏡をこなたにうつれるかげをみよ。これみれば哀にかなしきぞとて。さめとなき玉ふを見れば。ふしまろびなきなげきたるかげうつれり。此影をみれば。いみじうかなしな。これ見よとて。いまかたつかたにうつれる影をみせたまへば。みすどもあをやかに。木帳をしいでたるしたより。いろのきぬこぼれいでて。梅さくら咲たるに。鶯こづたひ鳴たるをみせて。これをみるはうれしなどの玉ふとなむみえしとかたるなり。いかに見えけるぞとだに耳扶もとゞめず。物はかなき心にもつねにあまてる御神をねんじ申せといふ人あり。いづくにおはします神佛にかはなど。さはいへどやうおもひわかれて人にとへば。神におはします。伊勢におはします。紀伊の國にきのこくさうと申すは此