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のがたりし明し
年はくれ夜は明かたの月かけの袖に移れる程そはかなき
かう立出ぬとならば。さても宮づかへのかたにもたちなれ。世にまぎれたるも。ねぢけがましきおぼえもなきほどは。をのづから人のやうにもおぼしもてなさせ玉ふやうもあらまし。おやたちもいと心えず。ほどもなくこめすへつ。さりとてその有さまのたちまちにきらきらしきいきほひなどあんべいやうもなく。いとよしなかりけり。すゞろ心にても。ことのほかにたがひぬる有さまなつかし。
幾千たひ水の田芹をつみしかと思ひしことの露もかなはぬ
とばかりひとりごたれてやみぬ。其後は何となくまぎらはしきに。ものがたりのことも打たえわすられて。物まめやかなるさまに心も成果てぞ。などておほくの年月をいたづらにてふしをきしに。をこなひをも物まうでをもせざりけん。此あらましごととても。思しことどもは。此世にあんべかりけることゞもなりや。ひかる源氏ばかりの人は。此世におはしけ