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ろきをわたしたりし。このたびはあとだにみえねば舟にてわたる。入江にわたりし橋也。とのうみはいといみじくあらく。波たかくて。入江のいたづらなるすどもに。こと物もなく。松原のしげれる中より浪のよせかへるも。いろいろの玉のやうにみえ。まことに松の末より波はこゆるやうに見えて。いみじくおもしろし。それよりかみは。井のはなといふさかのえもいは
嵐こそ吹こさりけれ宮路山また紅葉葉のちらて殘れる
三河と尾張となるしかすがのわたり。げにおもひわづらひぬべくおかし。尾張の國なるみの浦を過るに。夕しほたゞみちにみちて。こよひやどからんも。ちうけんにしほみちきなば。こゝをも過じと。あるかぎりはしりまどひすぎぬ。美濃の國なるさかひに。すのまたといふわたりして。野がみといふ所につきぬ。そこにあそびどもいできて。夜ひとようたうたふに。あしがら成し思ひ出られて。哀に戀しき事かぎりなし。雪降あれまどふに。ものゝ興もなくて。不破の關あつみの山などこえて。近江の國おきながといふ人の家にやどりて四五日あり。みつさか