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Page:Gunshoruiju18.djvu/378

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ろきをわたしたりし。このたびはあとだにみえねば舟にてわたる。入江にわたりし橋也。とのうみはいといみじくあらく。波たかくて。入江のいたづらなるすどもに。こと物もなく。松原のしげれる中より浪のよせかへるも。いろいろの玉のやうにみえ。まことに松の末より波はこゆるやうに見えて。いみじくおもしろし。それよりかみは。井のはなといふさかのえもいは[れイナシ]ずわびしきをのぼりぬれば。三河の國の高師の山といふ。八はしはなのみして。橋のかたもなく。なにの見所もなし。二むら山の中にとまりたる夜。大きなるかきの木の下にいほをつくりたれば。夜ひとよいほのうへにかきのおちかゝりたるを。人々ひろひなどす。宮ぢの山といふ所こゆるほど。十月晦日なるに。紅葉してさかりなり。

 嵐こそ吹こさりけれ宮路山また紅葉葉のちらて殘れる

三河と尾張となるしかすがのわたり。げにおもひわづらひぬべくおかし。尾張の國なるみの浦を過るに。夕しほたゞみちにみちて。こよひやどからんも。ちうけんにしほみちきなば。こゝをも過じと。あるかぎりはしりまどひすぎぬ。美濃の國なるさかひに。すのまたといふわたりして。野がみといふ所につきぬ。そこにあそびどもいできて。夜ひとようたうたふに。あしがら成し思ひ出られて。哀に戀しき事かぎりなし。雪降あれまどふに。ものゝ興もなくて。不破の關あつみの山などこえて。近江の國おきながといふ人の家にやどりて四五日あり。みつさか[のイ]山のふもとに夜ひるしぐれあられ降みだれて。日の光もさやかならず。いみじうものむづかし。そこをたちて。いぬがみかむざきやすくるもとなどいふところなにとなくすぎぬ。みづ海のおもてはるとして。