Page:Gunshoruiju18.djvu/376

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て見れば。むかしこはだといひけんがまごといふ。かみいとながく。ひたいいとよくかゝりて。色しろくきたなげなくて。さても有ぬべきしもづかへなどにてもありぬべしなど。人々哀がるに。こゑすべてにるものもなく。空にすみのぼりて。めでたくうたをうたふ。人々いみじうあはれがりて。けぢかくて。人々もてけうずるに。に扶しくにのあそびはえかゝらじなどいふをきゝて。難波わたりにくらぶればと。めでたくうたひたり。みるめのいときたなげなきに。こゑさへにる物なくうたひて。さばかりおそろしげ成山中にたちて行を。人々あかず思ひて。みななくを。おさなき心地には。まして此やどりをたゝん事さへあかずおぼゆ。まだ曉より足柄をこゆ。まいて山のなかのおそろしげなる事いはむかたなし。雲はあしの下にふまる。山のなからばかりの木の下のわづかなるに。あふひのたゞ[三イ]すぢばかりある[をイ]世はなれて。かゝる山中にしもおひけんよと人々あはれがる。水はその山に三ところ[ぞイ]ながれたる。からうじて越[いイ]てゝ。關山にとゞまりぬ。是よりは駿河なり。よこはしりの關のかたはらにいはつぼといふところ有。えもいはずおほきなる石のよはうなる中に。あなのあきたる中よりいづる水の。淸くつめたき事かぎりなし。富士の山は此國なり。我生出し國にては。にしおもてにみえし山なり。その山のさま。いと世にみえぬさま也。さまこと成山のすがたの。こんじやうをぬりたるやうなるに。雪の消る世もなくつもりたれば。色こききぬにしろきあこめきたらんやうに見えて。山のいたゞきのすこしたいらぎたるより。烟は立のぼる。夕暮は火のもえたつも見ゆ。淸見が關は。かたつかたは海なるに。關屋どもあまた有