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Page:Gunshoruiju18.djvu/362

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はたとぞ申すといへば。たきごゑならむといひてたちぬ。さてみふねじまといふ所にて。

そこおイに誰さほさしてみふね嶋神の泊りにことよさせけむ

たゞの山のたきのもとにて。

名にたかく早くよりきし瀧の糸に世々の契りを結ひつる哉

この山のありさま。人にいふべきにあらず。あはれにたうとし。かへるとて。そこにかひひろふとて袖のぬれければ。

藤衣なきさによするうつせ貝ひらふたもとはかつそ濡ける

この濱の人。はなのいはやのもとまでつきぬ。見ればやがて岩屋の山なる中をうがちて經をこめ奉たるなりけり。これはみろくぼとけの出給はんよにとり出たてまつらんとする經なり。天人つねにくだりてくやうし奉るといふ。げに見奉れば。この世ににたる所にもあらず。そとばのこけにうづもれたるなどあり。かたはらにわうじのいはやといふあり。たゞ松のかぎりある山也。その中にいとこきもみぢどもあり。むげに神の山と見ゆ。

法こめてたつの朝をまつ程は秋の名こりそ久しかりける

夕日に色まさりていみじうおかし。

心あるありまの浦のうら風はわきて木の葉も殘す有けり

天人のおりてくやうし奉るを思ひて。

天津人いはほをなつる袂にや法のちりをはうちはらふ覽

四十九院のいはやのもとにいたる夜。雪のいみじうふり。風わりなくふけば。

うら風に我こけ衣ほしわひて身にふりつもる夜半の雪かな

たてが崎といふ所あり。かみイのたゝかひしたる所とて。たてをついたるやうなるいはほどもあり。

打浪に滿くる汐のたゝかふをたてか崎とはいふにそ有ける

伊勢の國にてしほのひたる程に。見わたり