Page:Gunshoruiju18.djvu/360

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みなへの濱にしりたる人のみやまより歸るにあひぬ。同じうはもろともにまて給へかしといへば。かへる人。忍びて申給ふこともこそあれといへば。いほぬし。なにごとにかあらん。ものうたがひはつみうなりとて。ひろひたる貝を手まさぐりになげやりたれば。ものあらがひぞまさるなる。かうなあらがひ給そとて。かうなのからをなげをこせたり。また浪にもうかびてうちよせらるゝを。かれ見給へ入ぬるいそのといへば。かへる人。こふる日はと心ありがほにいへば。いほぬし。くまのおのづからといへば。浦のはまゆふといらふるいほぬし。かさねてだになしとこそといへばかへる人。中々にとて。

もしほ草浪はうつむとうつめともいや現れに現れぬかり

いほぬし返し。

みくまのゝ浦にきよする濡衣のなき名をすゝく程と知なむ

などいひてたちぬ。さらば京にてといへば。いほぬし。おさふる袖のといらふれば。あなゆゝしや。後瀨の山になどいひてたちぬ。その夜むろのみなとにとまりぬ。きのもとに柞のもみぢして。いほりつくりて入ふしぬるに。夜のふくるまゝに時雨いそがしうふるに。

いとゝしくなけかしきよを神無月旅の空にもふる時雨哉

御山につくほどに。木のもとごとに手向の神おほかれば。水のみにとまる夜。

萬代の神てふかみにたむけしつ思ひと思ふことはなりなん

それより三日といふ日御山につきぬ。こゝかしこめぐりて見れば。あむじち庵室ども二三百ばかりをのがおもひにしたるさまもいとおかし。したしうしりたる人のもとにいきたれば。みのをこしにふすまのやうにひきかけて。ほだくひといふものを枕にし