Page:Gunshoruiju18.djvu/348

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日いできてこぎゆく。このあひだに。つかはれんとてつきてくるわらはあり。それがうたふふなうた。猶こそくにのかたはみやらるれ。わがちゝはゝありとしおもへば。かへらやとうたふぞあはれなる。かくうたふをきゝつゝこぎくるに。くろとりといふ鳥いはのうへにあつまりをり。そのいはのもとに浪しろくうちよす。かぢとりのいふやう。くろきイ鳥のもとにしろきなみをよすとぞいふ。このこと葉なにとにはなけれども。物いふやうにぞきこへたる。人の程にあはねばとがむるなり。かくいひつつゆくにふなぎみなる人。なみを見て。國よりはじめてかいぞくむくひせんといふなる事をおもふうへに。海のまたおそろしければ。かしらもみなしらけぬ。なゝそぢやそぢはうみにあるものなりけり。

 わかかみの雪と磯への白浪といつれまされり沖つしまもり

とかぢとりいへり。

廿二日。よんべのとまりよりことゞまりをおひてぞゆく。はるかに山見ゆ。としこゝのつばかりなるをのわらは。としよりはをさなくぞある。このわらは。船をこぐまに。山もゆくと見ゆるをみて。あやしきこと歌をぞよめる。[その歌]。

 漕てゆく舟にて見れは足曳の山さへゆくをまつはしらすや

とぞいへる。をさなきわらはのことにてはにつかはし。けふ海あらげにて。いそに雪ふりなみの花さけり。あるひとのよめる。

 浪とのみひとへにきけと色見れは雪と花とにまかひける哉

廿三日。ひてりてくもりぬ。このわたりかいぞくのおそりありといへば。神ほとけをいのる。

廿四日。きのふのおなじところなり。

廿五日。かぢとりらのきた風あしよからぬイといへば。船いださず。かいぞくおひくといふ事たへずき