ふしたれは。つゆ年ふるへくもあらす。人のみなうちとけてねたるに。その事と思ひわくへくもあらねは。つくつくと目をのみさまして。なに心なう恨めしうのみ思ひふしたるほとに。鴈のはつかにうち啼たる。人はかうしも思はすやあらん。いみしうたへかたき心ちして。
まとろまてあはれ幾夜に成ぬらん只鴈金を聞わさにして
かくてのみあかさむよりはとて。つま戶をしあけたれは。おほそらににしにかたふきたる月の影。とをくすみ渡りてみゆるに。きりわたりたる空のけしき。かねのをと鳥の聲。ひとつにひゝきあひて。さらに過にしかたいまゆくすゑのことも。かゝるおりはあらしと袖のいろさへあはれにめつらかなり。
我ならぬ人もさそみん長月の晨明の月にしかしあはれは
たゝ今このことをうちたゝかする人のあらんに。いかにおほえん。いてやたれかかくてあかす人はあらむ。
よそにても同し心に在明の月をみるやと誰にとはまし
宮わたりにやきこえさせましとおもふに。おはしましたりけるよと思ふまゝにたてまつりたれは。うち見給ひて。かひなくはおほされねと。詠めゐたらんに。ふとやらむと思してつかはすに。女やかて眺め出してゐたるに。もてきたれはあへなき心ちして。ひきあけてみれは。
秋のうちはくちける物を人もさは我袖とのみ思ひける哉
消ぬへき露の命とおもはすは久しききくにかゝりやはせむ
まとろまて雲井の鴈の音を聞は心つからの業にそありける
我ならぬ人も有明の空をのみおなし心になかめけるかな
よそにても君計こそ月はみめと思てゆきしけさそくるしき
いとあけかたかりつるかとをこそとあるも。物きこえさせたるかひもあるこゝちすかし。かくてつこもりかたにそ御文ある。日比のおほつかなさなといひて。あやしき事なれと。忍ひて物いひつる人なむとをくいくなるを。哀