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Page:Gunshoruiju18.djvu/19

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月のあかゝりしに。ひとやみるらむとしのひたりし。おもひい[てイ]らるゝほとに。ふと。

 一夜見し月そと思へと詠れは心もゆかすめはそらにして

と聞えても。なを獨なかめゐたるほとに。はかなくてあけぬ。又の夜おはしましたりける。こなたにはきかす。かたに人のすむ所なりけれは。そなたに人の來りたる車を御覽して。人の侍にこそ。車侍りと聞ゆれは。よし歸りなんとておはしましぬ。人のいふはまことにこそとおほすもむつかしけれと。さすかにたえはてん物とはおほさゝけれは文遣[すイ]。よへ參りたりとはかりは聞給けんや。それもえしり給はさりしにやとおもふこそいみしけれ。

 松山に波高しとは見てしかと今日の詠めはたゝならぬかな

とあり。雨うちふる程也。あやしかりける事かな。人のそらことを聞えたりけるにやと思ひて。

 君をこそ末の松とは思ひつれひとしなみには誰かこゆへき

ときこえつ。宮は一夜のことをなま心うくおほして。久しうの給はせて。かく。

 つらしとも又戀しとも樣々に思ふ事こそたえせさりけり

御返はきこゆへき事なきにしもあらねと。わさとおほされんもはつかしくて。かくそ。

 あふ事はとまれかくまれ歎かしを恨絕えせぬ中となりせは

と聞えさする。さてのちもまとをになん。月のあかき夜。うちふして。うら山しくもなとなかめらるれは。宮にかうそきこえける。

 月をみてあれたる宿に詠むとは見にこぬ迄も誰につけよと

ひすまし童して。右近のそうにさしとらせて。きねとてやる。宮はお前に人々して物語しておはしますほとなりけり。人まかてなとしていらせ給に。右近のそうさし出たれは。例の車にさうそくせさせよとて。おはします。女はしになかめて居たるほとに。人のいりくれは。すたれうちおろしてゐたれは。まことにめなれ