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よと共に物思ふ人は夜とてもうちとけてめのあふ時もなし
めつらかにも覺え侍らすときこえつ。又の日けふやものに出給ふ。いつか歸り給へからん。いかにましておほつかなからんとあれは。
おりすきはさても社︀やめ五月雨の今宵菖蒲のねをやかけまし
とこそ思給へ。かへりぬへけれと聞えて。まうてゝ。二三日はかりありてかへりたれは。宮よりいとおほつかなく成にけれは。まいりてとおもふを。いとこゝろうかりしにこそ。ものうくはつかしう覺えて。いとおろかにこそはおほされぬへけれ。日ころは。
つらけれと忘れやはする程ふれはいと戀しきにけふはまけ南
淺からぬ心のほとをさりともとあれは。
まくるともみえぬ物から玉葛とふ人すらもたえまかちにて
と聞えたり。宮れいの忍ひておはしましたり。をんなさしもやはとおもふうちに。日ころのをとなひにくるしうて。うちまとろみたるほとに。かとたゝくをきゝとかむる人もなし。きこしめす事もあれは。人なとのあるにやとおほしめして。やをらかへらせ給ぬ。つとめて。
あけさりし槇の戶口に立なからつらき心のためしとそ見し
うきはこれにやと思にも。哀になんとあり。よへおはしましたりけるなめりかし。心もなくね入にける哉と思ひて。
いかてかは槇の板戶もさし乍らつらき心のありなしをみん
をしはからせ給ふへかめるこそ。みせたらはとあり。こよひもおはしまさまほしけれと。かかる御ありきを。人々もせいし聞ゆるを。