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Page:Gunshoruiju17.djvu/236

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詣きて。まうのぼると云事を聞て。あゆみとうイするむまをもちて。はしらせむかへさせ給ふ。時に馬に乘て。筑紫より唯七日にのぼりまふで來り。文をみるに。いはく。火ねずみの革衣。からうじて人を出して取て奉る。今のよにも昔の世にも。此皮はたはやすくなき物也けり。昔賢き天竺の聖。此國にもてわたりて侍りける。西の山寺にありと聞及ておほやけに申て。からうじてかい取て奉る。あたひの金すくなしと。こくし使に申しかば。わうけいが物くはへてかひたり。今金五十兩たまはらん。舟のかへらんにつけてたび送れ。若金たまはぬ物ならば。皮衣のしち返したべ。といへる事をみて。なにおぼす。いま金少の事[にてイ]こそ[なイ]めれ。〔かならず送るべき物にこそあなれ。〕うれしくしてをこせたる哉とて。唐のかたにむかひてふし拜み給ふ。此革衣入たる箱をみれば。草々のうるはしきるりを色へてつくれり。皮衣を見ればこんじやうの色也。毛のすゑにはこがねの光しさゝきイ、やきイたり。寶とみえうるはしき事幷ぶべきものなし。火に燒ぬ事よりも。けうらなる事双なし。うべかぐや姬このもしがり給ふにこそありけれとの給ひて。あなかしことて。箱に入たまひてものの枝に付て。御身のけさう化粧いといたくして。やがてとまりなむ物ぞとおぼして。歌讀くはへてもちていましたり。其歌は。

 かきりなき思ひにやけぬかは衣袂かはきて今こそはきめ

と云り。家の門にもていたりてたてり。竹取出きて。取入てかぐや姬に見す。かぐや姬の。皮衣をみて云く。うるはしき皮きぬイなめり。わきて誠の皮ならんともしらず。竹とりこたへていはく。とまれかくまれ。先しやうじ入奉らん。世中にみえぬ皮衣のさまなれば。これを[まこと]と思ひ給ね。人ないたく佗させ[奉らせ]たまひそと云て。よびす