コンテンツにスキップ

Page:Gunshoruiju17.djvu/235

提供:Wikisource
このページは校正済みです

返さん事いとやすしとうなづきおり。かぐや姬の心行果て。ありつる歌のかへし。

 まことかと聞てみつれは言の葉を飾れる玉の枝にそ有ける

と云て玉のえだも返しつ。竹取の翁。さばかりかたらひつるが。さすがに覺てねぶりをり。御子は立もはした。ゐるもはしたにてゐ給へり。日の暮ぬればすべり出給ひぬ。かのうれへせしたくみをば。かぐや姬よびすへて。うれしき人どもなりといひて。[マヽ]どもいとイ多くとらせ給ふ。たくみらいみじく喜て思ひつるやうにも有哉と云て歸る。道にてくらもちの御子。ちのながるゝまでちやうぜさせ給ふ。ろくえしかひもなく。みな取すてさせ給ひてければ。迯うせにけり。かくて此御子は。一しやうのはぢ是にすぐるはあらじ。女を得ず成ぬるのみにあらず。天下の人の見思はん事のはづかしき事との給ひて。たゞ一所ふかき山へ入給ひぬ。宮司さぶらひし人々みなてを分ちてもとめたてまつれども。御しにもやし給ひけん。えみつけ奉らず成にけり[ぬイ]。〔みこの御供にかくし給はんとて。年比見え給はざりけるなり。〕是をなんたまかざ[さかイ]るとはいひはじめける。左大臣安倍のみむらじは。寶ゆたかに家廣き人にぞおはしける。其年きたりけるもろこし船のわうけいといふ人のもとに文を書て。火ねづみの皮といふなる物買ておこせよとて。つかふまつる人の中に心たしかなるを撰て。小野房盛と云人をつけてつかはす。もていたりてかのうらにをるわうけいに金をとらす。わうけい文をひろげて見て返事かく。火鼠の皮衣。此國になき物也。音にはきけども。いまだ見ずさぶらふ物也。世にある物ならば。此國にももて詣來なまし。いとかたき商也。然ども若天ぢくに逅にもて渡りなば。若ちやうじやのあたりにとぶらひもとめんに。なき物ならば。使に添てかねをば返し奉らんといへり。彼唐ぶねきけり。小野房盛