Page:Gunshoruiju17.djvu/234

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ひしにたがはましかばと。此花を折てまうで來る也。山は限なく面白し。世にたとふべきにあらざりしかど。此枝を折てしかば。更に心もとなくて。舟に乘て追手の風吹て。四百よ日になん詣きにし。大願[のイ]力にや。難波より昨日なん都に詣きつる。更に鹽に雰たる衣をだに脫かへなでなん詣來つるとのたまへば。翁聞て打歎てよめる。

 吳竹のよゝの竹とり野山にもさやは侘しきふしをのみ見し

是を御子聞て。こゝらの日頃思ひ侘侍りつる心[はイ]。今日な[イ无]むおちゐぬる。との給ひて返し。

 わか袂けふかはけれは侘しさの千種のかすも忘られぬへし

との給ひ。かゝる程に男[どもイ]六人つらねて庭に出來たり。一人のイおとこ。ふばさみに文を挿て申。つくもどころつかさのたくみあやべのうちまろ申さく。玉の木を作りつかふまつりし事。五穀を斷て。千餘日に力をつくしたる事すくなからず。然るに[マヽ]いまだ給はらず。是給はりてわろきけごにたまはせんと云てさゝげたり。竹とり此工等が申事[はイ]。何事ぞとかたぶきおり。御子は我にもあらぬけしきにて。肝消ぬべき心ちしてゐ給へり。是をかぐや姬聞て。此奉る文をとれと云てみれば。ふみに申けるやう。御子のきみ。千日いやしき匠等ともろともに同じ所に隱ゐたまひて。かしこき玉の枝をつくらせ給ひて。司もたまはらイんと仰給ひき。是を[このイ]頃あんずるに。御つかひとおはしますべきかぐや姬のえうし給ふべき成けりと承て。此宮よりたまはらんと申て。給るべきなりと云を聞て。かぐや姬のくるゝまゝに忍ひ侘つる心ちわらひさかへて。翁をよびとりて云やう。誠蓬萊の木とこそ思ひつれ。かくあさましき空事にてありけれはイ。はや返し給へといへば。翁こたふ。さすが[だかイ]につくらせたる物と聞つれば。