Page:Gunshoruiju17.djvu/233

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に出て。ゆかんかたもしらず覺しかど。思ふ事ならで世中にいきて何かせんと思ひしかば。たゞむなしき風にまかせてありく。命しなばいかゞはせん。いきてあらん限かくありきて。蓬萊といふらむ山にあふやと海に漕たゞよひありきて。我國のうちを離てありきまかイりしに。ある時はなみ荒つゝ海の底に入ぬべく或時は風につけてしらぬ國に吹よせられて。鬼のやうなるもの出來て殺さんとす。ある時はこしかた行末もしらず海にまぎれむとしき。或時にはかてつきて草の根をくひものとす。ある時はいはんかたなくむくつけ[むくつけげイ]なるものきてくひかゝらんとしき。ある時は海の貝をとりて命をつぐ。旅の空にたすけ給ふべき人もなき所に色々のやまひをして。行方空も[すらもイ]おぼえず。船の行にまかせて海にたゞよひて五百日といふ辰の時ばかりに。海の中に纔に山みゆ。舟のうちをなんせめてみる。海の上にたゞよへる山いとおほきにて有。其山のさま高くうるはし。これや我救る[もとむるイ]山ならんと思ひて。さすがにおそろしくおぼえて。山のめぐりをさしめぐらして二三日ばかりみありくに天人の粧ひしたる女山の中より出來て銀のかなまるをもちて水をくみありく。是を見て船よりおりて。此山の名を何とか申ととふ。女こたへていはく。是は蓬萊の山なりと答。是を聞に嬉しき事限なし。此女かくの給ふは誰そととふ。我な[はイ]ほうかんるりと云て。ふと山の中に入ぬ。其山を見るに更にのぼるべきやうなし。其山の岨ひらをめぐりければ。世中になき花の木どもたてり。金銀瑠璃色の水山よりながれ出たり。それには色々の玉の橋わたせり。そのあたりに照輝く木どもたてり。其內にこのとりてもちてまうできたりしは。いとわろかりしかども。の給