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Page:Gunshoruiju17.djvu/154

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ばえさぶらはで。暮にかへるとてよめる。

 忘れてはつゝ古今夢かとそ思ふおもひきや雪ふみ分て君をみんとは

とよみてなん。なくかへりにける。

昔男有けり。身はいやしながら。はゝみこなりけり。その母なが岡といふ所にすみ給ひけり。子は京に宮づかへしければ。まうづとしけれどしばもえまうでず。ひとり子にさへ有ければ。いとかなしうし給けり。さるほどにしはすばかりに。とみのこととて御ふみあり。驚て見れば。ことことはなくて。

 老ぬれはさらぬ別も有といへはいよみまくほしき君哉

となん有ける。是を見て馬にものりあへずまいるとて。道すがらおもひける。

 世中にさらぬ別のなくもかな千世もとたのむなげく古今、いのる一本人の子のため

昔おとこ有けり。わらはよりつかうまつりける君。御ぐしおろし給ふてけり。もとの心うしなはじとて。む月にはかならずまうでけり。おほやけの宮づかへしければ。しばもえまいらざりけれど。心ざしばかりはかはらざりければまうでたるに。また昔つかうまつりし人のぞくなる。ほうしなる。まいりあつまりて。む月なれば。ことたべ[たつイ]とておほにぶき[みきイ]たまひけり。雪こぼすがごとくふりて。日ねもすにやまず。みな人ゑひて。雪にふりこめられたるを題にて。歌よまんといふに。

 思へとも身をしわけねはめはかれぬ雪のつもるそ我心なる

とよめりければ。みこいといたう哀がりて。御ぞぬぎて給へりけり。

むかし。いとわかきおとこ。わかき女をあひいへりけり。をのおや有ければ。つゝみていひさしてけり。年ごろへて女のかたより猶このこととげんといへりければ。男うたをよみてやれりけり。いかゞおもひけん。

 今迄に忘ぬ人は世にもあらしをのかさま年のへぬれは