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Page:Gunshoruiju17.djvu/142

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 紫の色こき時はめもはるに野なる草木そわかれさりける

むさし野の心なるべし。

昔男。色ごのみとしる。女をあひしけり。にくゝもあらざりけれど。なをいとうたがひうしろめたな[き歟]うへに。いとたゞには。あらざりけり。ふつかばかりいかで。かくなん。

 出て行あとみち一本たにいまたかはかぬにたか通路と今はなるらん

ものうたがはしさに。よめるなり。

昔かやのみこと申すみこ おはしましけり。其みこ女をいとかしこう。めしつかひたまひけり。いとなまめきて有けるを。わかき人はゆるさゞりけり。我のみと思ひけるを。又人きゝつけて文やる。郭公のかたをつくりて。

 時鳥なかなく里のあまたあれは猶うとまれぬ思ふ物から

といへりけり。この女けしきをとりて。

 名のみたつしてのたおさはけさそなく庵數多に疎まれぬれは

一時はさ月になんありければ。男又返し。

 いほり多きしてのたおさは猶賴む我すむ里に聲したえすは

昔あがたへゆく人に。馬のはなむけせんとて。よびたりけるに。うとき人にしあらざりければ。いへとうじして。さかづきさゝせなどして。女のさうぞくかづく。あるじの男うたをよみて。ものこしにゆひつけさす。

 いてゝゆく君か爲にとぬきつれは我さへもなく成ぬへき哉

むかし宫づかへしける男。すゞろなるけがらひにあひて。家にこもりゐたりけり。時はみな月のつごもりなり。夕暮に風すゞしく吹。螢など飛ちがふを。まぼりふせりて。

 行螢雲の上まていぬへくは秋風吹とかりにつけこせ

昔すき者の心ばえあり。あでやかなりける人のむすめのかしづくを。いかで物いはんと思ふ男有けり。こゝろよはくいひいでんことやかたかりけん。物やみになりてしぬべきとき。かくこそおもひしかといふに。おやきゝつけ