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Page:Gunshoruiju17.djvu/141

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 君により思ひならひぬ世中の人は是をや戀といふらん

返し。

 習はねは世の人ことに何をかも戀とはいふととひわふれ共

昔わかき男。けしうあらぬ人を思ひけり。さかしらするおやありて。おもひもつくとて。このをんなをほかへならんといふ[おひやらんとすイ]。人の子なれば。まだ心ごゝろのいきをひなくて。えとゞめず。女もいやしければ。すまふちからなし。さこそいへ。まだえやらずなるあひだに。思ひはいやまさりにまさる。おやこの女ををひいづ。男ちのなみだをおとせども。とゞむるちからなし。つひにいぬれ[ゐていでていぬイ]。女かへし人につけて。

 いつこまておくりはしつと人とはゝあかぬ別れの淚河まて

おとこなくよめる。

 いとひては誰か別の難からんありしにまさるけふは悲しな

とよみてたえいりにけり。おやあはてにけり。なをざりに思ひてこそいひしか。いとかくしもあらじとおもふに。まことにたえいりたれば。まどひて願などたてけり。けふのいりあひばかりにたえいりて。又の日のいぬの時ばかりになん。からうじていきいでたりける。むかしのわか男は。かゝるすける物思ひなんしける。今のおきなまさにしなんやは。

昔女はらからふたり有けり。ひとりはいやしき男のまづしき。ひとりはあてなる男のとくあるもちたりけり。そのいやしきおとこもちたる。しはすのつごもりに。うへのきぬをあらひて。手づからはりけり。心ざしはいたしけれども。いまださるわざもならはざりければ。うへのきぬのかたをはりさきてけり。せんかたもなくて。なきにのみなきけり。これをかのあてなる男きゝて。いと心ぐるしかりければ。いときよげなりける四位のうへのきぬ。たゞかた時に見いでて。