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君により思ひならひぬ世中の人は是をや戀といふらん
返し。
習はねは世の人ことに何をかも戀とはいふととひわふれ共
昔わかき男。けしうあらぬ人を思ひけり。さかしらするおやありて。おもひもつくとて。このをんなをほかへ
いつこまておくりはしつと人とはゝあかぬ別れの淚河まて
おとこなく〳〵よめる。
いとひては誰か別の難からんありしにまさるけふは悲しな
とよみてたえいりにけり。おやあはてにけり。なをざりに思ひてこそいひしか。いとかくしもあらじとおもふに。まことにたえいりたれば。まどひて願などたてけり。けふのいりあひばかりにたえいりて。又の日のいぬの時ばかりになん。からうじていきいでたりける。むかしのわか男は。かゝるすける物思ひなんしける。今のおきなまさにしなんやは。
昔女はらからふたり有けり。ひとりはいやしき男のまづしき。ひとりはあてなる男のとくあるもちたりけり。そのいやしきおとこもちたる。しはすのつごもりに。うへのきぬをあらひて。手づからはりけり。心ざしはいたしけれども。いまださるわざもならはざりければ。うへのきぬのかたをはりさきてけり。せんかたもなくて。なきにのみなきけり。これをかのあてなる男きゝて。いと心ぐるしかりければ。いときよげなりける四位のうへのきぬ。たゞかた時に見いでて。