Page:Gunshoruiju17.djvu/140

提供:Wikisource
このページは校正済みです

すけなりける人。

 花にあかぬ歎はいつもせしか共けふの今宵にしく物そなきしくをりはなき一本

とよみてたてまつれり。

むかしおとこ。はつかなりける女に。

 逢ことは玉のをはかり思ほえてつらき心のなかくみるらん

むかしおとこ。宮のうちにて。あるごたちのつぼねのまへをわたるに。なにをあだとかおもひけん。よしや草葉のならんさが見んと。いひければ。男。

 つみもなき人をうけへは忘草をのか上にそおふといふなる

といふを。ねたう女も思ひけり。

昔男。津のくにむばらのこほりにすみける女にかよひける。此たびかへりなば。又はよもこじと思へるけしきをみて。女のうらみければ。

 あしへ一本よりみちくる汐のいやましに君に心を思ひます哉

女返し。

 こもり江に思ふ心をいかてかは舟さす掉のさしてしるへき

いなかの人のことにてはいかゞ。

むかしおとこ。つれなかりける人のもとに。

 いへはえにいはねはむねのさはかれて心一つになけく比哉

おもひていへるなるべし。

むかし男。心にもあらでたえにける女のもとに。

 玉のをゝあはをによりて結へれは逢ての後もあはぬ成けりあはんとそ思ふ一本

昔忘ぬなめりと。とひごとしける女のもとに。

 谷せはみ峯まてはへる玉かつら絕んと人をわか思はなくに

女かへし。

 僞と思ふ物から今さらにたかまことをか我はたのまん

むかしおとこ。いろごのみなりける人をかたらひて。うしろめたなしとやおもひけん。

 我ならて下紐とくな朝かほの夕かけまたぬ花には有とも

女かへし。

 ふたりして結ひし物を獨して逢みんまてはとかしとそ思ふ

むかし。きのありつね物にいきて。ひさしうかへらざりけるにいひやる。