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Page:Gunshoruiju17.djvu/132

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ものに思ひなして。京にはをらじ。あづまのかたにすむべき所もとめにとてゆきけり。しなののくにあさまのたけに。けぶりたつを見て。

 しなのなる淺間のたけに立煙をちかた人の見やはとかめぬ

もとよりともする人。ひとりふたりして。もろともにゆきけり。みちしれる人もなくて。まどひゆきけり。みかはのくにやつはしといふ所にいたりぬ。そこやつはしといふことは。水のくもでにながれわかれて。木八わたせるによりてなむ八橋とはいへる。その澤のほとりに。木かげにおりゐて。かれいひくひけり。その澤にかきつばたいとおもしろくさきたり。それを見て。都いとこひしくおぼえけり。さりけれぱある人。かきつばたといふいつもじを。くのかしらにすへて。たひの心よめといひければ。ひとの人よめり。

 から衣きつゝなれにしつましあれは遙々きぬる旅をしそ思

と讀りければ。みな人かれいひのうへに淚落してほとびにけり。ゆきて。するがの國にいたりぬ。うつの山にいたりて。わがゆくすゑのみちは。いとくらくほそきに。つたかづらはしげりて。もの心ぼそう。すゞろなるめを見ることとおもふに。す行者あひたり。かゝるみちには。いかでかおはするといふに。見れば見し人なりけり。京にその人のもとにとて。文かきてつく。

 するかなるうつの山への現にも夢にも人のあはぬなりけり

富士の山を見れば。さ月つごもり雪いとしろくふりたり。

 時しらぬ山はふしのねいつとてかかのこまたらに雪の降覽

この山は。上はひろく。しもはせばくて。大笠のやうになん有ける。高さはひえの山をはたちばかり。かさねあげたらんやうになん有ける。なをゆきて。むさしの國としもつふさの