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うなりければ。あばらなるくらの有けるに。女をばおくにおしいれて。男は弓やなぐひをおひて。とぐちに。はや夜もあけなむとおもひつゝゐたりけるほどに。鬼はや女をばひとくちにくひてけり。あゝやといひけれど。神のなるさはぎにえきかざりけり。やう〳〵夜の明行を見れば。ゐてこし女なし。あしずりしてなけどかひなし。
白玉か何そと人のとひし時露とこたへてけなましものを
これは二條の后の。御いとこの女御のもとに。つかうまつ
むかしおとこ有けり。女をぬすみてゐてゆく道にて。水のまんととふに。うなづきければ。つきなんどもぐせねば。手にむすびてのます。さてゐてのぼりにけり。女はかなくなりにければ。もとの所へゆく道に。かのし水飮し所にて。
大原やせかゐの水をむすひ上てあゝやと云し人はいつらそ
といひてきえかゑり。あはれ〳〵といへどかひなし。
昔男ありけり。京にありわびて。あづまへゆきけるに。伊勢おはりのあはひの海づらをゆくに。なみのいとしろくたちかへるを見て。おもふ事なきならねば。おとこ。
いとゝしく過行かたの戀しきにうらやましくもかへる浪哉
むかし男ありけり。そのおとこ。身はようなき