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ルフォン剤であるプロミン及びダイアゾンの治療効果に関する研究成果を報告した。これによれば、プロミンあるいはダイアゾンの投与を受けた患者は、六か月の治療で 二五パーセント、一年で六〇パーセント、三年で七五パーセント、四年で一〇〇パー セントが軽快し、四年間の治療で五〇パーセント以上が菌陰性となるという極めて画期的なものであった。この会議では、スルフォン剤の評価について最終的見解を出すには更に時間を要し多くの症例を見る必要があるとされたが、ファジェットの研究成果が高く評価されたことは間違いのないところである。

 2 第五回国際らい会議 (昭和二三年、ハバナ)

 この会議でも、スルフォン剤の著効が確認され、「一九四六年リオデジャネイロ会議における意見乃至この国際会議を通じて、一九三八年のカイロ会議以来らいの治療に目覚ましい進歩が見られるに至ったことは明白な事実である。」、「らいの治療薬として選出できるものはスルフォン剤である」とされた。また、この会議でDDSの有用性についての報告がなされたことは、前記第三の三のとおりである。

 また、ハンセン病対策については、「らいの対策としては、⑴らい療養所⑵診療所 —外来の臨床治療、⑶発病予防所等の根本的機関の提携した活動が必要である。(中略)ママ らい療養所とは (a) らい伝染性患者、(b) 社会的、経済的事情により非伝染性患者の両者を隔離するところである。(中略)ママ らい療養所の存在位置は交通の便利な都市間の中央近くがよい。最も近い都市から半径一〇ないし三〇キロメートル内が好ましい。患者を特別な小島に隔離する事は無条件に責められるべきである。」、「施薬所又は外来診療所この両者ともらい管理には欠くべからざる重要性をもっている。これは交通の便利な、しかも人口密度の高い地域に設けるべき」、「伝染性のらい患者は隔離する。隔離の様式及び期間等は患者の臨床的、社会的条件又は特殊な地方的条件等によって異なる。」、「非伝染性の患者は隔離することなく、一定の正規な監視下におく。」、「らい患者及びその家族の社会的援助は対らい政策に基本的必要性を占めるものである。(中略)ママらい療養所を退所できる患者に社会復帰上の援助を与えること。」とされた。

 3 WHO第一回らい専門委員会 (昭和二七年、リオデジャネィロ)

 この委員会には、世界を代表するハンセン病学者が参加し、DDSを始めとするスルフォン剤の治療効果が確認され、これを踏まえてハンセン病対策の在り方が議論さ れた。

 以下、同委員会の報告の重要な部分を抜粋する。

 ㈠ スルフォン剤治療

  ⑴ 総論

 委員会は、スルフォン剤治療が嘗ての如何なるらい治療形式よりも非常に優れていると云う意見については異論がない。(中略)ママほとんど全てのらいはスルフォン剤治療に良く応ずる。(中略)ママスルフォン剤は、細菌に作用するものと信じられており、これは細菌の増殖を阻止する様に思われる。又斯くして、人間の体の感染に対する防護力が細菌の侵入を押える事が出来る様な程度に迄、らい菌の感染力を徐々ではあるが減少せしめるのである。らい菌の伝染力が根絶されてしまうかどうかは、疑わしい事であるので、それ故にらいの再発の可能性は考えられる。スルフォン剤治療を中止した後に起るらい再発に関するデータは少ない。この再発の危険性について正確な評価を下す事はまだ可能でない。(中略)ママスルフォン剤の使用が行われて以来一一年になり、らい治療の成績は非常に進歩した。この治療は全ての病型について、らいの活動性の症例に使用して偉大な価値を示したのである。

  ⑵ スルフオン剤の基礎となるDDSをもってする治療について

 DDSそれ自身が人体に使用されるとき、毒性が強すぎると今迄長い間信じられて来た。らいに対する一〇〇〇例からの、四年以上に亘る数ヵ国における治験の結果によると、若しもその量が適当に整えられて使用されるなら、考えられていた様な危険はない事がわかった。(中略)ママDDSの少量を用いる事は、一般にDDS以外の誘導体を多量に用いる場合に比して治療効果が決して少ない事はないと云うことである。DDSは多くの長所をもっている。即ち、その価額ママの安い事、その使用法の非常に簡単な事、これは普通経口的に投与出来る事、然し若しも希望なら注射でも投与出来る事、毎日の投与は必ずしも必要ではない事、即ち、一週間一回投与か、週二回投与の治療が広く用いられ、それ故、患者が治療センターより遠い所に住んでいる様な所では、その投与は薬の効果を長く保つために油の中にDDSを懸濁液として月二回法で注射も行う事も出来る。この様なわけで、多くの所で、特に大規模に仕事をしたり集団治療をする場合には、DDSは非常に利用価値が大である。

 ㈡ 疫学

 閉鎖型はらいを伝播する事に関して、重要な役割を演じていないと考えている。(中略)ママ開放性型と閉鎖性型との伝染力の著明な相違は、逆に云うならば、開放性型に対して、しっかりした隔離政策を広く行わねばならぬ事を基礎付けている。

 ㈢ らい管理

 らいと云う病気は、それだけ単独で扱う病気ではない。特にその流行地においては、一般の公衆保健に関する問題である。(中略)ママらい管理に関して政策を決定するのはあく迄公衆の保健衛生の立場からであって、決して公衆の恐怖とか偏見から行われるのであってはならない。

  ⑴ 管理方策としてのらい治療

 現代のらい治療は、患者の伝染性を効果的に減少せしめ、患者を非伝染性に変えてしまう。それ故にこのらい治療と云うものはらい管理に最も有力な適した武器として好んで利用されているのである。(中略)ママ

   ⑵ 隔離

 理論的には伝染性のある症例を隔離する事はらい伝染の絆を断つものであって、結局らい根絶の結果をもたらすものではあるが、実際には多くの症例は、らいと診断され、隔離される前の数年間と云うものは他人に対して伝染性をもっていたものである。患者の強制隔離への恐怖は、患者をしてますます出来るだけ長い間一般社会に隠れていようとさせるもので、それが皮肉にも病気の治癒が可能である期間中隠れている様な結果になってしまう。従って、施設に隔離する事のみが、期待する様な結果をもたらすものではなく、厳しく隔離を適当な規模で行った時でさえ、管理方法として失敗する事があるのである。然し適当な症例を撰んで、これを行い、又患者によく話して説得を行い、効果的な治療を併せ行うならば、らい行政において、これはなお重要な意味を残しているのである。隔離に関しては、らい管理の見地からして、病症を二つに分ける事が必要となって来る。(中略)ママ伝染性の症例のみ隔離の形式に従う必要がある。伝染性らいに対する隔離の程度、隔離のよい規準、適用する強制力の度合等は、国や地方によって異って来る。らいが流行地でない様な所や、らいが拡がる傾向のない所では、らい患者に対して何等かの監視が必要であると云う届出制度をとって、治療を行って行けばそれでよい。

  (イ) 強制隔離

 らいが高度に流行しているが、然し、その国の資源が少なくて、施設内の治療を行うに適していない様な国においては、義務的な隔離は不可能である。然し、この様な場合にも、必要な時、可能な時には何でも適用するために強制隔離の法的の力を残して置く事は、保健当局にとって得策である。資源が充分あり、らいが流行している様な国においてさえ、強制力は説得と云う方法が失敗した時にのみ適用すべきである。(中略)ママ伝染病のらいを、或る施設に強制隔離する事は理論的に効果的な事であるが、実際には非常に好ましくない事である。と云うのは、それは、屢々患者の家族を別々に分離させ、家庭をやぶり、不時の生活不能者を作る事になるから。斯る事に対する患者の恐怖と、或る施設に長く止らねばならない事、又嘗つて施設に居たと云う事だけで汚名がつく事を考えると、ますます患者は己れのらいである事を隠し、その結果、治療を何時迄も受けない事になり、接触者に対してかえって危険をもたらす様になる。らいの軽快の機会を以前にまして与えるようになった最近のらい治療の目覚ましい効果を考えると、強制隔離に関する実施については再考慮を必要とする。

  (ロ) 乳幼児に対するらい予防

 らいの流行地においては、らいが一般に乳幼児において、それ以上の年令の者に比べて伝染し易いと云う意見は、すでに一般に認められている事で、それだけに伝染の 恐れがあると思われる乳幼児に対しては特別の注意がはらわれ、彼等をらいと接触させないようにまもる必要がある。このためには、隔離と云う方法で患者を移すとか、 子供の方を患者から離すとかすべきである。

 4 第六回国際らい会議 (昭和二八年一〇月、マドリッド)

 この会議では、第五回国際らい会議以降のスルフォン剤の追試報告が数多くなされ、副作用や再発についての報告も現れているが、基本的にはスルフォン剤の治療効果が高く評価され、「一般的に観て、全ての病型を含むらいの治療においてスルフォン剤の効力は確定的なものとなって来た」、「スルフォン剤は過去一二年間の臨床実験の結果、過去における他の如何なる治療薬より効果的であると云う証明がなされている」とされた。そして、DDSを用いた在宅治療の可能性が再び強調された。

 なお、この会議では、「殆ど凡ての研究家がスルフォン剤を好んで使用し、大風子油を放置している。」とされた。

 5 MTL国際らい会議 (昭和二八年一一月、ラクノー)

 この会議は、ィギリスのMTL (ミッション・ツウ・レパー) とアメリカのALM (レプロシーミッション) 主催の合同国際会議であり、ハンセン病医学の世界的権威が集った。

 この会議では、「らいは個別的疾病ではなく、らい流行地においては一般的公衆衛生上の問題である。恐怖及び偏見のない公衆衛生の原理にもとづいてらい管理政策を樹立せねばならない。」、「開放性らい患者の隔離は必要と考えられるが、かかる隔離は専ら自発性に基くものであらねばならない。然し時には当局の権力を必要とするかも知れない。」、「特殊ならい法令は廃止され、らいも一般の公衆衛生法規における他の伝染病の線に沿って立法されることが望ましい。」、「社会復帰態勢は、患者が施設に入所した当時から、彼の能力、可能性、予後を判断して、開始されなければならない」とされ、①強制収容を廃止し、施設入所は患者の合意の下で行うこと、②施設入所は治療を目的とした一時的なものとし、軽快者を速やかに社会復帰させること、③外来治療の場で引き続き十分な治療を行うこととし、療養所だけでなく、一般病院、保健所や一般医療機関でも外来治療を行えるようにすることが強調された。

 6 WHO編「近代癩法規の展望」 (昭和二九年)

 「近代癩法規の展望」は、WHOが昭和二九年に各国のハンセン病に関する法制度をまとめたものである (なお、新法は検討対象にされていない。)。

 この報告は、「癩隔離の如き、峻烈にして類のない個人の自由の拘束が、医学的、 公衆衛生的の理由によって実施されている処では、この問題は定期的に再検討を要する。(中略)ママ現在われわれの持っている本病に関する知識に照らして、若干の現行施策は、その正当さを証明することがむつかしく見えるばかりでなく、或るばあいには、例えば結核よりも伝染性がずっと少いという伝染性に関する事実とは反対の施策であるようにも思える。更にまた、衛生上の初歩的規則が守られている処では、療養所の職員には伝染の危険は殆んどないし、