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塗抹し乾燥させ、染色後に顕微鏡でらい菌の有無、個数等を検查するものである。

 菌指数とは、塗抹検査によって認められる菌の個数を次のような指数で表したものである。

菌指数六+ 毎視野中に平均一〇〇〇個以上

菌指数五+ 毎視野中に平均一〇〇個から一〇〇〇個

菌指数四+ 毎視野中に平均一〇個から一〇〇個

菌指数三+ 毎視野中に平均一個から一〇個

菌指数二+ 一〇視野中の合計が一個から一〇個

菌指数一+ 一〇〇視野中の合計が一個から一〇個

菌指数- (マイナス) 菌を発見できない。

 二 リドレーとジョプリングの分類と他の病型分類との関係

 1 マドリッド分類

 リドレーとジョプリングの分類以前のマドリッド分類 (第六回国際らい会議、昭和二八年) は、L型 (らい腫型)、T型 (類結核型) に加えて、B群 (境界群)、I群 (不定型群)の二型二群とした。なお、我が国では、昭和五三年まで境界群を可能な限り減らしてL型とT型の二種類に分ける方法が採られていたため、L型にもT型にも現在のB群が相当程度含まれていたものと思われる。

 我が国における各分類の比率は、証拠上必ずしも明確ではないが、《証拠略》ママによれば、L型が七〇パーセント程度であると思われる。

 2 我が国の伝統的分類

 我が国で伝統的に用いられてきた病型分類として、結節型、斑紋型、神経型の三分類がある。これをマドリッド分類と対比すると、結節型はL型とB群の一部を、斑紋型はT型とB群の一部を含むものと考えられる。なお、神経型は、斑紋型で斑紋が消失したものである。

 3 WHO提案の病型分類

 WHOは、多剤併用療法による治療方針決定上のより簡便な病型分類として、MB型 (多菌型) とPB型 (少菌型) の二分類を提案した。

 これによると、MB型はおおむねLL型、BL型、BB型及び一部のBT型に相当し、PB型はおおむねI群、TT型及び大部分のBT型に相当する。

 三 症状の特徴

 ハンセン病の症状は、以下のとおり、病型によって大きく異なる。

 1 皮膚等

 ㈠ I群 一個ないし数個の低色素斑 (ときに紅斑) が見られる。

 ㈡ TT型 一個ないし数個の低色素斑あるいは紅斑が見られ、病状が進行すると手掌大あるいはそれ以上の大きさとなる。皮疹に一致して知覚障害、発汗障害、脱毛を伴う。

 ㈢ BT型 TT型に似て、低色素斑か紅斑で始まるが、皮疹は小さめで、数は多めである。皮疹に一致する脱毛、発汗障害は余り顕著ではない。

 ㈣ BB型 多数 (BL型、TT型よりは少ない) の斑か、集簇性丘疹か、あるいはこれらの混在した病巣が見られる。個疹は大きく、拡大傾向を示して板状疹となることもあり、多形性あるいは地図状で、辺縁は不整である。皮疹に一致して軽度の知覚麻痺、脱毛、発汗障害、皮脂分泌障害が認められる。

 ㈤ BL型 初期は斑で始まるが、間もなくこれらは集簇・融合する。境界不明瞭 な紅斑・板状疹・丘疹・結節や、外側の境界が不明瞭な環状斑が多発する。皮疹部分には発汗障害が認められる。

 ㈥ LL型 通常、早期から広範囲・対称性に分布する複数の皮疹が確認できる。 病態が進むと、皮疹の数が増加し、更に進行すると皮膚の肥厚 (浸潤) として確認できるようになる。真皮に塊状の肉芽腫が形成されると、丘疹や結節の皮疹となる。集簇性・散在性に分布する段階から全身に播種状に多数散布するものまで様々である。び慢性に浸潤した肥厚部位に結節が混在したり、結節が腫大・融合して巨大な局面や腫瘤が形成されることもあり、斑、丘疹、板状疹、結節が混在してくる。結節は自潰しやすく、潰瘍や痂皮を形成し、顔面の浸潤、結節が高度になると獅子様顔貌となる。早期から発汗障害を認めることもある。特に進行すると、眉毛・睫毛・頭髪の脱落、爪の変形・破壊が起こる。

 2 末梢神経

 ㈠ I群 皮疹部分の知覚低下以外に特に変化は認められない。

 ㈡ TT型 菌の存在が末梢神経系の一部のみにとどまり、侵されるのは比較的低温の皮膚から浅い部分にある神経幹である。特に、尺骨、総腓骨、顔面神経が侵されやすく、ここから分かれ出る末梢神経はすべてその機能を停止し、運動麻痺と全種類の知覚障害が支配領域に出現する。

 ㈢ BT型 皮疹の出現に先立って、知覚過敏が起こることもある。皮疹に一致して知覚障害が認められるが、TT型より軽度である。神経幹の肥厚は強く、TT型よりも広範囲であるが非対称性である。神経障害による筋萎縮や運動障害を残しやすい。

 ㈣ BB型 非対称性の肥厚を伴った多発神経炎を起こしやすい。

 ㈤ BL型 対称性の神経障害が現れる傾向がある。比較的多くの神経に比較的強い変化が見られ、かなりの機能障害を残すおそれがある。

 ㈥ LL型 全身の皮膚表層の末梢神経を対称性に侵すが、深層の末梢神経は侵されず、皮膚温度の高いところや踵・指先等の角化の強い部分も侵されにくい。このような領域を除いた全身の皮膚表面の知覚低下 (鈍麻) が見られる。さらに、皮膚の浅い部分の神経幹も侵されやすいため顔面筋・小手筋、前頸骨筋等の麻痺が加わる。多くは病期が進行してから現れ、主として知覚鈍麻を呈する。神経の肥厚は顕著ではない。

 3 眼

 TT型やBT型は、顔面に病変がある場合に顔面神経麻痺による片側性の兎眼が見られることがある。BL型やLL型では、らい菌が血行性に眼部に到達して、増殖することがある。特に、眼球の前半部は低温のため浸されやすい。顔面神経や三叉神経の麻痺があると多彩な障害が起こる。らい菌の侵入による変化と末梢神経の障害とがあいまって後遺症を残すことが多い。

 4 耳・鼻・口・咽喉

 TT型やBT型では、顔面に病変がある場合のみに、顔面神経麻痺による変化が見られる。BL型やLL型では、鼻、口腔、咽喉の粘膜にらい菌の浸潤による病変が見られることもある。

 5 臓器

 至適温度が三〇度から三三度であるというらい菌の特性から、ハンセン病では体表に近い低温部が侵されやすく、温度の高い臓器 (肝臓、脾臓、腎臓等) に病変が生じてもこれによる障害はほとんど見られない。

 四 経過、予後、治癒

 1 経過

 ㈠ I群 約四分の三は自然治癒し、四分の一が更に成熟した病態に移行するとされる。

 ㈡ TT型 皮疹出現時期が明確なことが多い。しばしば皮疹部位に知覚過敏が現 れ、早期に運動障害を起こすこともある。病変が激しいときは、前駆症として発熱や悪寒を伴う。皮疹は自然治癒することもある。末梢神経障害により高度の後遺症を残すことが少なくない。

 ㈢ B群

 末梢神経障害を起こしやすく、病型の変動を起こしやすい。

 ㈣ LL型

 未治療のまま放置すると病変が拡大して、重症化する。

 2 予後

 ハンセン病そのものはもともと致死的な病気ではない。例えば、昭和六年から昭和二三年までの長島愛生園の死亡統計によれば、ハンセン病による衰弱死は全体の二・九パーセントにすぎず、喉頭のらい腫性病変による喉頭狭窄を来した死亡例を加えても三・六パーセントであり、スルフォン剤による化学療法の出現前においても、ハンセン病が直接的な死因となったものは極めて少なかった。また、リファンピシンやクロファジミンによる治療が登場する以前の昭和四五年に発行された「らい医学の手引き」においても、「らいによる直接的もしくは間接的な死亡の危険性は、スルフォン剤が出現してから進行性の重症らいが激減し、また抗生物質によって感染症が制圧されたため、ますます遠のいてしまった」とされている。

 3 治癒

 国立らい療養所共同研究班 (平成元年) は、次の状態 (鎮静期) がI群及びTT型で二年以上、B群及びLL型で五年以上続いたときを臨床的治癒としている。

 ㈠ 菌検查 らい菌の消失

 ㈡ 臨床症状 皮疹消失、らい反応なし、知覚障害の拡大や著明な筋力低下なし、眼や鼻に活動性病変なし

 五 らい反応

 1 意義

 ハンセン病の経過は通常緩やかであるが、突然、急激な炎症性変化が起こることがある。これをらい反応という。らい反応には、大きく分けて、境界反応とらい腫反応 (ENL反応) の二つがある。前者はB群の患者に、後者はLL型やBL型の患者に起こる。

 2 境界反応

 境界反応は、抗菌剤の治療中に発生することが多い。DDS単剤療法ではB群患者の約五〇パーセントに、多剤併用療法でも二五パーセントに起こるとされる。

 境界反応が起こると、皮膚と神経で炎症が生じる。皮慮ママでは、既存の境界群病巣の炎症症状の悪化あるいは新しい皮疹の出現が見られる。神経では、炎症性変化により神経内圧が上昇し神経破壊と麻痺を来し得る。兎眼、垂手、垂足を生じることもある。

 境界反応が生じても抗菌剤投与は原則として継続する。治療としては、鎮静剤や非ステロイド系消炎鎮痛剤等で対処することもあるが、反応が重篤で皮膚潰瘍や神経炎が起こると、ステロイド剤の適応となる。

 3 ENL反応

 ENL反応は、らい菌由来の抗原と抗体、補体とが結合してできた免疫複合体が、組織内や血管壁に沈着して起こる全身の炎症であり、抗菌剤治療を開始した数か月後から生じることが多く、LL型患者の半数以上、BL型患者の約四分の一に起こるとされている。

 主症状は皮疹であるが、重症例では末梢神経炎、虹彩毛様体炎、リンパ節炎、さらには睾丸炎、発熱、タンパク尿、開節炎等の全身性変化を起こすことがある。

 ENL反応が生じた場合、以前は抗菌剤投与が一時中止されていたが、現在は中止する必要はないとされている。治療には、サリドマイド (ENL治療の第一選択としてよい薬剤であり、昭和四〇年以降広く使用されるようになつた。)、クロファジミンが著効を示すほか、ステロイドも有用である。軽症患者には、鎮静剤、非ステロイド系消炎鎮痛剤による対症療法で効果が得られることもある。

 予後は通常良好であるが、軽症の炎症が数か月から数年にわたって持続し神経障害が進行したり、眼症状を残すこともある。

第二 ハンセン病の疫学

 一 ハンセン病の疫学的特徴

 ハンセン病の特徴は、感染と発病の間に大きな乖離が見られることであり、発病するのは感染者のごく一部にすぎず、感染者の中の有病率は高い場合でも通常一パーセントを超えることはないとされる。

 この乖離の原因は、らい菌の毒力が極めて弱いため、感染しても発病に至ることが少なく、この菌に対して抗原特異的免疫異常が起きた場合にだけ発病するからであるとされる。すなわち、ハンセン病は、弱毒