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と、一首の狂歌を吟じて絕命せりと云ふ。道灌たるもの亦た自から、かねて無き身と思ひ知らずば、いかでか能く斯の如きを得んや。

 丈夫の心中、常に磊々落々たるものあり、凡夫の一大事は勇士の一笑事に過ぎず。されば古への戰に、兩雄陣に臨み、劍戟を交ふるに當りて、尙且つ連歌を鬪はしたるのためしも尠からず。戰役は啻に獸力を格するのみに非らず、又た才智を較すべき塲裡たるの觀ありき。

 前七年の役、衣川の戰に、敵軍潰走し、其將安倍貞任纔に身を以て遁るゝや、義家之を追ひ、きたなくも敵に後を見するものかな、しばし返へせやとぞ呼ばゝりける。貞任乃ち見かへれば、義家弓を引きしぼりつゝ、大音に、