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て、神經を鍛冶するを畏怖し、之が爲に少年の敦厚なる情性を嫩芽にして摘み去りて、粗剛殘忍の性に陷らしむるの弊あらざる無きかを疑はんとするものゝ如し。されど武士道の勇に於ける觀念は、啻に斯の如きに止まらず。

 勇の人の精神に宿るや、現はれて沈毅となり、不動となる。平靜なるは勇の休息せる形にして、又た勇の平衡を得て靜止せる現象なり。之に反して大膽なる行爲は、其の動勢に表はれたる形なり。大勇の士は、沈着重厚なり。事に處して、其常を失はず、矢石を冒して怖れず、災危に臨んで動かず、雷霆の威に屈ぜず、風波の烈に驚かず、泰山前に崩るとも變ぜず、鼎鑊の中にありて自から安じ、死生の巷に立ちて自から樂めり。眞の勇者は危を踏み、死に瀕して、從容詩歌を詠