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ることあらんか、自から其理を知ること無くして、直ちに之に應和す。故に同一の道德思想と雖、之を表すに新譯語を以てすると、古來武士道の襲用せる言語を以てするとは、其効力に於て多大の徑庭あり。曾て一人の基督敎徒あり、信仰の道より離れて、牧師の忠言も、竟に其墮落を拯ふ能はざりしに、人あり彼に說いて、一旦其救主に誠實を盟ひて、而して之に背くは忠義の道に非ずと陳ぶるや、彼は飜然として忽ち其信仰に復歸したりと云ふ。忠義の一語は、凡て高尙なる感想の冷却するを再燃せしめたり。曾て某校に一團を成せる不覊粗暴の靑年あり、敎授某に對する不平の念より、數日の間同盟休校を敢てしたるに、其校長の彼等に向ひ、『某は缺點無き人物なる乎、然らば彼を尊重して、其留任を求