とも、死屍の坐容を亂して、謹愼を破ること無からんが爲、先づ帶紐を以て其膝を縛することを忘るべからず。盖し其覺悟は基督敎徒の殉敎婦人パーペチユア(註)の如く、又た羅馬ヴエスタ宮殿の童貞(ヴエスタル)コルネリア(註)にも比すべきに非らずや。予の率爾として此問を發する所以のものは、外人の往々我國の入浴其他瑣些たる慣習を見て、日本女子は貞潔を知らずと評するあるを以てなり。然るに之に反し、貞潔は士分の婦人の主德にして、之を重んずること其生命にも勝れり。曾て妙齡の一女子あり、敵手に捕へられ、將にむくつけき荒男の手籠に會はんとするや、女云ひけるやう、此上は力無し、唯だ此度の負戰に離散したる母や姉のいかばかりか案じ煩ふべきに、唯だ一筆の便りするを許されんには、甘んじて