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り。學問は其活動の範圍外に在りて、唯だ其の武職に干與するの際に於て、之を利用するのみ。宗敎と神學とは之を僧侶に委し、武士は唯だ勇氣を養ふに補益する所あるに由つて、之れを採れり。英國詩人の云へるが如く、武士は『人を救ふは信條に非らずして、信條を全うするは唯だ人に在り』と信ぜり。哲理と文學との二は、武士の智育の眼目を成せりと雖、此等を修むるに於ても、亦た武士の志す所は、客觀の眞理に非ず――文學は要するに消閑の娛樂として之を修め、哲理は軍旅若くは政治の問題を解明するが爲に之を講ずる乎、然らざれば品性を作るの實用に資するものなりき。

 斯るが故に、武士敎育の課程は主として、擊劍、射術、柔術、騎