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Page:Bunmeigenryusosho1.djvu/133

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ごとくし給へとをしへければ、あき人謹んで承る、其計略に云、一尺四寸の箱一つこしらへ、上をばうつくしく作りかざりて、中には石を多くいれて、汝が國の人に持せて、これを玉ぞといつはりて、かの長者のもとへあづけさせよ、其時にのぞんで、なんぢが金をこへ、玉を預らんがために、銀をば汝に返すべしと云、あき人これをこしらへて、いそほの敎しへのごとく、同國のものに持せ、かの長者の所へ行き、これをあづくる、その時あんのごとく、玉をあづからん爲に、あき人に云やう、いかなれば、御邊はかねをばとりたまはぬぞ、これこそおことの金ぞとて、本のかねをあたへてけり、そのゆへは、此箱の內の名珠、十貫目の南鐐より、そくばくまさるべしとおもふによつてなり、すなはち箱一つあづけて、かねをとりて歸りけり、あつぱれかしこきをしへかなとて、ほめぬ人こそなかりけり、

第十六 いそほ二人のさぶらひと夢物語の事

ある時、さんと云所に、侍二人いそほを誘引して、夏の暑さをしのがん爲、すゞしき所をもとめて至りぬ、其所につゐて、三人定めていはく、こゝによきさかな一種あり、むなしく喰はんもさすがなれば、暫くこのうてなにまどろみて、よき夢見たらんもの、此さかなを喰はんと也、去によつて、三人同枕にふしけり、二人の侍は前後もしらずねいりければ、いそほ少もまとろまず、あるすきをうかゞひて、ひそかにおきあがり、此さかなを喰ひつくして、またおなじごとくにまどろみけり、暫く有てのち、ひとりの侍おきあがり、今一人をおこして云、某すでにゆめをかうぶる、其故は天人二體あまくだらせ給ひ、われをめしぐして、天のけらくをかうぶると見しと云、今一人がいふ樣、わがゆめ甚これに異也、天朝二體われをかいしやくして、ゐんへる野へいたりぬと見る、其時兩人せんぎして、かのいそほをおこしければ、ねいらぬいそほが、ゆめのさめたる心ちして、おどろくけしきに申やう、御邊はいかにしてか、此所に來り給ふぞ、さもふしん也と申せば、兩人の侍あざ笑つて云、いそほは何事をのたまうぞ、われ此所をさる事なし、御邊と共にまどろみけり、我ゆめは定りぬ、御邊のゆめはいかにととふ、いそほ答云、御邊は天にいたり給ひぬ、いま一人は、いんへる野へ落ちぬ、二ながら此界に來る事