し、三分一を拾手にあたふ、其時ふくろをひらきみれば、日記すなはち三貫目也、前代未聞のけんだん也と、人々感じ給けり、
第十四 中間とさぶらひと馬をあらそふ事
ある中間、主人の馬にのりて、はるかのよそへ赴く處に、侍一人行あひ、則いかつて云、我侍の身として步にて行、汝は人の所從也、其馬よりおりて我をのせよ、然らずば、ほそくび切て捨てんと云、中間心に思ふ樣、此道中にて訴ふべき人もなし、とかく難澁せば、頭をはねられん事うたがひなし、是非に及ばず馬よりおりけり、侍わが物がほに打のりて、かれをめしつれ行程に、さんと云所になんなく付にける、中間そこにてのゝしる樣、我主人の馬也、かへし給へと云、侍馬にのりながら、狼藉なり、二度のゝしるにおゐては、運氣をはねんと云ければ、中間いん共せずして、其所の守護に行て此よし訴、去に依て、守護より武士をつかはして、彼侍をめしぐしけり、彼と是と爭所決しがたし、守護理非をわけかねて、いそほをよびてけんだんせしむ、いそほ是を聞て、先中間をかたらひて、ひそかに云、彼侍をきうめいせん時、汝あはてゝ物云事なかれといましめらる、中間謹で畏る、時にいそほのはかりごとに、うはぎをぬひで、彼むまのつらになげかけ、侍にとひけるは、此馬の眼いづれかつぶれけるぞと問、侍返事にたへかねて、思案すること千萬也、思ひ詫て、左の目こそつぶれたると申、此時上著を引のけて見れば、兩眼まことに明か也、是に依て馬を中間にあたへ、かの侍をばはぢしめて、時の是非をわけられけり、
第十五 長者と他こくの商人の事
去程に、さんと云所に、ならびなき長者あり、外には正直をあらはすといへ共、內心旣に奸曲也、ある時かたゐなかの商人、銀子十貫目持來て、此長者をたのみけるは、われ此所よりえじつとに至りぬ、遠路の財寶あやうけれは、あづけ奉らんと云、長者やすくあづかりける、此あき人えじつとよりかへりてかねをこふ、良者諍て云、われ汝が金をあづかる事なし、證跡あるやととふ、あき人如何と申事なくして、いそほの本へ行きて、此よしをなげきければ、伊曾保をしへて云、其人は此所にてほまれある長者なり、證據なければきうめいしがたし、汝に計略ををしへん、其