を赦免あるべしと、堅く契約有ければ、今日よりのちは、御ゆるしなしとても、御ふだいのところをば、免され可㆑申と云ける也、
第九 さんの法事の事
あるとき、其里にて大法事執行こと有けり、よつて在所の老若男女、袖をつらねて之を聽聞す、然處にさんの守護、よそほひゆゝしくめでたうおはしけるところに、わし一つとび來りて、かの守護のゆびかねをつかみ取て、いづくともなくとび去ぬ、これに依て法事興さめて、諸人あやしみをなせり、これたゞ事にてあるべからず、しやんとにとひ奉るべしと、人々申あへり、守護しよくより、しやんとのもとへ使者をたてて、法事の處にめしうけ、此事如何にととひ給へば、庭に並居たる人々も、これをきかんと頭をうなだれ、耳をそばだてゝ、あらきいきをもせず、四方しづまつて後、しやんとものしりがほにうちあんじて、これいみじき御大事にてこそ候へ、たやすく申べき事にあらず、日數をへて、しづかにかんがへ奉り、後日にこそ申べけれとてたゝれければ、人々其日を定めて退散せり、しやんと、それよりわが家に歸りて、日夜これをあんずるに、さらに何事ともきわまへず、いたづらに工夫をついやすのみ也、いそほ此由を見て、殿は何事を御案じ給ふぞと申ければ、しやんとの云、此事をこそ案じけれど、件の字の子細を初終かたり給へば、いそほ申しけるは、