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そ戰は衆を固くするに利を相す、亂を治め止まるを進め、正を服し恥を成し、法をつゞまやかにし罰をはぶく、小罪乃ち殺せば小罪勝ち大罪因る。天にしたがひ、財をゆたかにし、衆をよろこばし、地を利し、兵を右にす、是を五慮といふ。天にしたがふとは時を奉ずるなり、財をゆたかにすとは敵に因るなり、衆をよろこばすとはおのれに勉むるなり、地を利すとは隘阻あいそを守るなり、兵を右にすとは弓矢もてふせぐなり。殳矛しゆぼう守り戈戟くわげき助く、凡そ五兵五つながら當る、長きは以て短きを衞り、短きは以て長きを救ふ、たがひに戰へば則ち久し、皆戰へば則ち强し、物を見てともひとしきは是れ之れをふたつにすといふ、主はかたおのれを勉め敵を視て擧ぐ、將の心は心なり、衆の心は心なり、牛馬車兵佚飽は力なり、敎はあらかじめし、戰はだ節にす。將軍は身なり、卒はえだなり、伍は指拇ゆびなり。凡そ戰は權なり、鬪は勇なり、陣は巧なり。其欲する所を用ひ、其能くする所を行ひ、其欲せざるを廢す、敵する能はざるは是に反せよ。

 凡そ戰に天あり、財あり、善あり。時日遷さず龜微に勝ち行ふ是れを天ありといふ、衆、有を有し因て美をす、是れを財ありといふ、人、陣利を習ひ物を極め以てあらかじめす、是れを善ありといふ。人勉めて任に及ぶ是れを人を樂むといふ、大軍は以て固く、多力は以て煩はす。物に堪へて治をえらび、物を見てそつに應ず、是れを豫を行ふといふ、輕車輕徒弓矢かたく禦ぐ、是れを大軍と