Page:Bukyō shitisyo.pdf/48

提供:Wikisource
このページは検証済みです

奈何。」起對へて曰く、「諸〻丘陵、林谷、深山、大澤は、疾く行きすみやかに去り、從容を得ること勿れ、若し高山深谷の如き卒然相遇はば、必ず先づ鼓譟して之れに乘じ、弓と弩とを進めて且つ射且つとりこにせよ、審かに其政亂を察し則ち之を擊ちて疑ふ勿れ。」

 武侯問うて曰く、「左右高山、地甚だ狹く迫り、にはかに敵人に遇はんに、之れを擊つも敢てせず、之れを去るも得ず、之れを爲すこと奈何。」起答へて曰く、「此れを谷戰といふ、衆と雖も用ひられず、吾が材士を募り敵と相當る、輕足利兵以て前行を爲し、車を分かち騎を列ね、四旁に隱し相去る數里其兵を見るなし。敵必ず陣を堅くし進退敢てせず、是に於て旌を出だし旆を列ね、行いて山外に出で之れに營せよ、敵人必ず懼れ車騎之れを挑んで休むことを得ざらしむ、是れ谷戰の法なり。」

 武侯問うて曰く、「吾れ敵と大水の澤に相遇うて、輪を傾け轅を沒し、水車騎に薄まり、舟楫設けず、進退得ず、之を爲すこと奈何。」起對へて曰く、「此れを水戰と謂ふ、車騎を用ふる無れ、且つ其傍にとゞまつて高きに登り四望せば、必ず水情を得、其廣狹を知り其淺深を盡くして、乃ち奇を爲して以て之れに勝つべし。敵若し水を絕たば、半ば渡つて之れにせまれ。」

 武侯問うて曰く、「天久しく連雨、馬陷り車止まり、四面敵を受け、三軍驚がいせば之れを爲すこ