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者は隘に務む。」

 武侯問うて曰く、「師あり甚だ衆く、旣に武く且つ勇み、大なる阻險を背にし山を右にし水を左にし、溝を深うし壘を高うし、守るに强弩を以てす、退くこと山の移るが如く、進むこと風雨の如く、糧食又多く、與に長く守り難し、則ち之を如何。」起對へて曰く、「大なるかな問や。此れ車騎の方にあらず、聖人の謀なり。能く千乘萬騎を備へ之れに徒步を兼ね、分かつて五軍をくり、各一衢に軍す、夫れ五軍五衞ならば敵人必ず惑うて加ふる所を知ることなし。敵若し堅く守り以て其兵を固うせば、急に間諜をり、以て其慮を觀よ、彼れ吾說を聽かば之れを解きて去る、吾說を聽かずば使を斬り書をき分かつて五戰を爲せ、戰勝つて追ふこと勿れ、勝たずば疾く走り、是の如くいつはげ、安く行き疾く鬪うて、一たび其前にむすび一たび其後を絕ち、兩軍枚をふくみ、或は左し或は右して其處を襲へ、五軍こもごも至らば必ず其利あり。此れ强を擊つの道なり。」

 武侯問うて曰く、「敵近うして我にせまり、去らんと欲して路なし、我が衆甚だ懼る、之を爲すこと奈何。」起對へて曰く、「之れを爲すの術、若し我れ衆彼れ寡ならば分かつて之れに乘ぜよ。彼れ衆我れ寡ならば方を以て之れに從へ。之れに從つて息むなくば衆と雖も服すべし。」

 武侯問うて曰く、「若し敵に谿谷の間に遇ひ、傍ら險阻多く、彼れ衆我れ寡ならば、之れを爲す