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る所以。耳は聲に威す、淸くせずんばあるべからず、目は色に威す、明かにせずんばあるべからず、心は刑に威す、嚴ならずんばあるべからず。三者立たずんば其國ありと雖も必ず敵に敗る。故に曰くしやうの麾く所從ひ移らざる無く、將の指す所前み死せざる無し。」

 吳子曰く、「凡そ戰の要は、必ず先づ其の將を占うて其才を察し、形に因つて權を用ふれば、則ち勞せずして功擧る。其將愚にして人を信ぜば、詐つてあざむくべし。貪つて名を忽にせば、貨もて賂ふべし。變を輕んじ謀なきは、勞して苦ましむべし。上富んで驕り、下貧にして怨まば、離して間すべし。進退疑多く其衆依るなきは、おどして走らしむべし。士其將を輕んじて歸志あらば、易きを塞ぎ險しきを開きむかへて取るべし。進む道は易く退く道難きは來つてすゝむべし。進む道は險に退く道易きは、めて擊つべし。軍を下濕において水通ずる所なく、霖雨數〻しば至るは、そゝいで沈むべし。軍を荒澤にき、草楚幽穢、風聽數〻しば至るはいて滅ぼすべし。停まること久うして移らず、將士おこたり怠り其軍備へざるは、潛かにして襲ふべし。」

 武侯問うて曰く、「兩軍相望み其將を知らず、我之れをんと欲す、其術如何。」起對へて曰く、「賤うして勇なる者をして輕銳をひきゐて之をこゝろみ、ぐるを務めて得るを務むる無く、敵の來るを觀て一たび坐し一たび起たしめんに其政以てをさまり、其ぐるを追ふにはいつはつて及ばざる