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周武はちうを伐つて殷人そしらず、擧、天人にしたがふ、故に能く然るなり。」

 吳子曰く、「凡そ國を制し軍を治むるに、必ず之れを敎ふるに禮を以てし、之れを勵ますに義を以てし、恥あらしむるなり。夫れ人、恥あるや、大にあつては以て戰ふに足り、小にあつては以て守るに足るなり。然れども戰勝つことはやすく、守ることは難し。故に曰く天下戰國五たび勝つ者はわざはひなり、四たび勝つ者はつひえなり、三たび勝つ者はたり、二たび勝つ者は王たり、一たび勝つ者は帝たり。是を以て數〻しば勝つて天下を得る者稀なり、以てうしなふ者はおほし。」

 吳子曰く、「凡そ兵のおこる所の者五あり、一に曰く名を爭ふ、二に曰く利を爭ふ、三に曰く惡を積む、四に曰く內亂る、五に曰く饑に因る。其名亦た五あり、一に曰く義兵、二に曰く强兵、三に曰く剛兵、四に曰く暴兵、五に曰く逆兵。暴を禁じ亂を救ふを義といふ、衆をたのみ以て伐つを强といふ、怒に因り師を興すを剛といふ、禮を棄てゝ利を貪るを暴といふ、國亂れ人疲れ、事を擧げ衆を動かすを逆といふ。五者の服する、各其道あり。義は必ず禮を以て服す、强は必ず謙を以て服す、剛は必ず辭を以て服す、暴は必ず詐を以て服す、逆は必ず權を以て服す。」

 武侯問うて曰く、「願くは兵を治め人をはかり國を固むるの道を聞かん。」起こたへて曰く、「古の明王は必ず君臣の禮を謹む、上下の儀を飾り吏民を安集す、俗に順うて敎へ、良材をえらつのり以て