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吾れ將に其のけつふさがんとす、死地には吾れ將に之れに示すにきざるを以てせんとす。故に兵の情、圍まるれば則ちふせぐ、已むを得ざるときは則ち鬪ふ、過ぐれば則ち從ふ。是故に諸侯のはかりごとを知らざる者はあらかじめ交はる能はず、山林、險阻けんそ沮澤そたくの形を知らざる者は軍をる能はず、鄕導きやうだうを用ひざる者は地の利を得る能はず、四五の者一をも知らざるは覇王はわうの兵にあらざるなり。

 夫れ覇王の兵大國を伐てば則ちそのしうあつまるを得ず。てきに加はれば、其交はり合ふを得ず。この故に天下の交を爭はず天下のけんやしなはず、己れの私をべて威敵に加はる、故に其城拔く可し、そのくにやぶる可し。無法の賞を施し無政の令を懸け三軍の衆をもちふること、一人を使ふ如くす。之れをもちふるに事を以てし吿ぐるに言を以てする勿れ。之れをもちふるに利を以てし吿ぐるに害を以てする勿れ、之れを亡地に投じて然る後ち存し、之れを死地におとしいれて然る後ち生く。夫れ衆、害に陷りて然る後ち能く勝敗を爲す。故に兵の事を爲すは敵の意をしたがひつまびらかにするにあり、力を一向にあはせ千里將を殺す、是れを巧みにして能く事を成すといふ。是故に政擧せいきよの日、關をやぶを折り其の使を通ずるなかれ、廊廟の上にはげまして以て其事をむ。敵人開闔かいがふせば必ずすみやかに之れに入れ、其の愛する所を先きにして、わづかに之れと期し、墨をんで敵に隨ひ以て戰事を決す、