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に足らざるなり。勇をとゝのふる一のごときは政の道なり、剛柔皆得るは地の理なり、故に善く兵を用ふる者は手をたづさふるが如く一人を使ふが如くなるは已むことを得ざるなり。將軍の事は靜以て幽に、正以て治め、能く士卒の耳目を愚にし之れをして知ることなからしめ、其の事をへ其の謀をあらためて人をして識ることなからしめ、其居をへ其の途をげ人をして慮るを得ざらしめ、ひきゐて之れとすること、高きにのぼつて其の梯を去るが如くし、ひきゐて之れと深く諸侯の地に入つて其の機を發すること群羊を驅るごとくす、驅られて往き驅られてきたく所を知るし。三軍の衆を聚めて之れを險に投ず、此れ將軍の事なり。九へん屈伸くつしん、人情の理、察せずんばあるべからざるなり。

 凡そ客たるの道は、深ければ則ち專らに、淺ければ則ち散ず。國を去りさかひを越えていくさする者は絕地なり、四もに通ずる者は衢地くちなり、入ること深き者は重地なり、入ること淺き者は輕地なり、固きを背にしせまきを前にする者は圍地なり、往く所なき者は死地なり。是故に散地には吾れまさに其のこゝろざしを一にせんとす、輕地には吾れまさに之れをしてしよくせしめんとす、爭地には吾れ將に其のうしろおもむかんとす、交地には吾れ將に其のまもりを謹まんとす、衞地には吾れ將に其の結びを固うせんとす、重地には吾れ將に其の食を繼がんとす、𡉏地には吾れ將に其途を進めんとす、圍地には