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Page:Arai hakuseki zenshu 4.djvu/832

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ゆるすべからず謹で 祖宗の法を按ずるに汝が如くの輩轉ぶ時はたすけ轉ばざる時は誅す當代仁恩廣大汝が其王の命をうけて身をかへり見ず萬里に使し來れる事をあはれみ給ふが故にその命をたすけて本國へ歸し給ふ所也すみやかに汝が國に歸り其王に申すべし此のち又汝がごとく我國に來らむものをば海邊の國守に仰せてまづ誅してのちに申さしむべしかならず汝の國人をして我誅を試みモトノマヽ陷らしむる事なかるべしと或は文にしるし或はことばにのべて長崎に來る廣東の船又は琉球より唐へゆく船にのせて呂宋へ歸さるべしもししからば彼國をして

我祖宗の法は天地と改るべからすして

當代仁恩の廣く聖度の大きなる事をしらしむべし〈長崎より來る時も乘物の外をばみる事かなはざるやうにせしと也かれ國に歸るとも我國の風俗をかたるべき樣もなし〉これ其事難きに似たりといへども易くして殊に古先聖王仁厚寬裕の事なればこゝを以てこれを上策とすこれらの中を以てよろしくゑらみ給ふ事あらむにはが愚忠むなしかるべからず


此上書すこしはや過たれどももしがいはゆる上策を取られてかれを歸されんにはすみやかなるにしくべからずしからば此たび付來れる與力同心幷通詞等に守らせ歸して來春夏の間長崎に來る廣東の船にものせ返さるべきかとまづ言上如右

此度渡り來候ロウマン人幷御役所書物等の說にて承知候大略條々

一彼法にてたつとみつかへ候天主デウスと申候は天地萬物を造り出し候神靈にて人間の善惡をかんがみ善なるものを天堂にのぼせ惡なるものを地獄に墮し候事をつかさどるの主と相聞え候其法を修し候ものは十戒を持ち諸惡を斷じ天堂に生をうけて地獄の苦しみをまぬかれ候事を求め候事と相聞え候其天主と申すものは道家に上帝と申すものに似候而其修行の法ことく佛家の法に同じく相見え候事

堯舜周孔の書に上帝と申す事有之候は天地造物の主宰の理をさし候へば彼法並道家の說のごとくその神人天上に有之候而時々人間に降り福を降し禍を降し種々の奇異有之事のごとくには無