Page:Arai hakuseki zenshu 4.djvu/831

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に及ばずされど其志の堅きありさまをみるにかれがために心を動かさゞる事あたはずしかるを我國法を守りてこれを誅せられん事は其罪に非ざるに似て古先聖王の道に遠かるべし此故にひそかにおもふ所はこれを誅せん事易くして易けれども下策に出づ又かれをたすけてトラヘおかれん事

猷庿初の御法によるに其法は轉びし上にたすけおかるべしかれが志の堅きをみるにすみやかに首を刎らるゝとも其志の變ずべきものとも見えずなまじひにかれを轉ばせんとして轉ばざるをたすけおかれんは我國の祖法をみづから弄ばせ給ふに似たり又轉ぶと轉ばざるとを問ずしてたすけおかれむは我國の祖法をみづから守らせ給はざるに似たりたとひ當代仁厚の大德を以て一時の權宜をはかり給ひてかれをたすけてとらへおかせ給はむともかれが命のあらむかぎり獄舍の中に痛み苦まむ事もまたあはれむべし是一ツ

猷庿の御末年杖つかせよと仰ありしより此かた彼國の人の來れるもの命たすけられし事一人もなししかれ共今又かれを彼國モトノマヽにつかはしたりましてや此度の使命たすけられて世にあると聞えば我國の法すこしくゆるみぬとおもひて彼國より來らむ者必らず踵を繼べしこれ又その來路を開かせ給ふに似たり是二ツ

たとひかれが事彼國に聞ゆる事なからむにもかれ來りてのちその事のなるやならずやを聞く事なからむには一二年を出ずして必ず又使をつかはすべし〈今もある事也はじめ使の返事なければ心もとなくてかさねて又使をつかはす事これ又人情のつねなり〉もししからばこれも又その來路を開く也是三ツ

かれを獄中に囚んには與力同心を始てもしかれが迯うせん事あらば罪蒙らむ事をおそれて日夜にこれを守るに心をくるしむるものすくなからじこれ四ツ

此故にひそかにおもふ所かれをたすけて囚おかれん事易きに似て尤難しこゝを以て中策とすかれをして我

祖宗代々の法をきかしめ

我國初より此かた聖子神孫よく祖宗の位をつぎよく 祖宗の天下をたもち給ふ事これたゞよく祖宗の法を遒〈遒は遵の誤なるべし〉ひ守り給ふによれりたとひ汝が訴ふる所の事その謂あり汝が法とする所その理ありとも今はた我 祖宗の法をやぶりて汝番夷の法を行ふ事を