附錄
謹而言上
異人之儀萬里之外國之人にて殊に此者と同時に本唐へ參候ものも有之由に候得者本唐の裁斷も可有之候旁以此御裁斷は大切之御事と奉存候付愚意之旨不顧憚言上如左
右
異人裁斷之事に上中下の三策御座候歟第一にかれを本國へ返さるゝ事は上策也〈此事難きに似て易き歟〉
第二にかれを囚となしてたすけ置るゝ事は中策也〈此事易きに似て尤難し〉
第三にかれを誅せらるゝ事は下策也〈此事易くして易るべし〉
謹按
むかし 神祖の御時慶長十九年より彼宗門を制せらるゝといへども法禁なほゆるやか也その後彼國人來りて其法をひろむる事は我國を奪ふ謀也と聞えて〈其法もと正しからずといへども我國を謀るといふは實なるべからずしかれ共島原の變出來たれば申ひらく事難かるべし〉猷庿の御時其禁もつとも嚴になりて我國の人其法を
猷庿御末年に及びてかれらには杖をつかせよと仰られたり〈杖つかせよとはころぶに及ばず誅せよとの御事也〉其輩が轉ぶ事をゆるさず皆こと〴〵に誅せらる〈前後凡ニ三十萬人〉しかれば今猷庿の御末年の例によらば此度の異人をば其罪のありやなしやを問はずして誅すべしこれを御裁斷あらむ事易くして易しといへどもかれ番夷の俗に生れそだつ其習其性となり其法の邪なるをしらずして其國の主と其法の師との命をうけて身をすていのちをかへりみず六十餘歲の老母幷年老たる姉と兄とにいきながらわかれて萬里の外に使として六年がうち險阻艱難をへてこゝに來れる事其志のごときは尤あはれむべし〈君のため師のために一旦に六年の月日萬里の波濤をしのぎしは難きに似たり〉臣又 仰を蒙りかれと覿面する事已に二度其人番夷にして其〈本書むしばみ讀得ず〉番夷なれば道德のごときは論する