Page:鐵道震害調査書 大正12年.pdf/24

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本調査に於ては列車運󠄁轉に支障を生じたる,震源地より最も遠󠄁き驛を連續せる線內を被害󠄂區域とし(附圖第一參照)その被害󠄂種別數量を綜合せるものは第一表に,損害󠄂見積費額及び應急󠄁工事費額は第二表及び第三表に揭げたり,以下これ等被害󠄂槪況を工種別に依りて記󠄂述󠄁すれば大要󠄁下の如し。

切取 切取は法面崩󠄁壞し,或は上部の土砂滑落して線路を埋沒せるところ頗る多く,その特に著しきは東海道󠄁本線箱根第三號󠄂道󠄁第四號󠄂道󠄁間,熱海線早川眞鶴間の數箇所󠄁,熱海軌道󠄁門川伊豆山間,小田原電氣鐵道󠄁湯本宮ノ下間等にして,或は隧道󠄁を壓潰し(箱根三號󠄂第四號󠄂道󠄁,熱海線下牧屋山隧道󠄁等),或は熱海線根府川驛附近󠄁に於けるが如く停車場及び運󠄁轉中の列車を海中に墜󠄁落せしむる等の慘狀を呈󠄁し切取崩󠄁坪󠄁數の積算實に約63,000立坪󠄁達󠄁せり。尙熱海線米神澤及び白糸川溪谷等に於ては泥流は奔下し來りて或は線路を埋沒せしめ或は橋梁を流失せしめたり。(第一表及び第四表參照)

築堤 築堤は潰裂或は沈下して堤形を失ひ,ために築堤下地下道󠄁の壓潰或は盛︀土上建󠄁築物の倒壞せるものあり,軌道󠄁の如きは或は波動狀に或は蛇行狀に錯亂し又󠄂橋臺背部の盛︀土は沈下殊に甚しく軌道󠄁空󠄁中に懸垂せし處尠からず,被害󠄂は各線至る處に分󠄁布せるも就中東海道󠄁本線國府津松󠄁田間及び熱海線國府津小田原間の如きは最も甚し,而して沈下線路の總延󠄂長48哩に達󠄁せり(第一表及び第五表參照)

土留壁 土留石垣の被害󠄂中最も多數なりしは切取法面の崩󠄁壞及び築堤の崩󠄁又󠄂は沈下に伴󠄁ふものにして,前者は約9,300面坪󠄁,後者は約7,200面坪󠄁達󠄁せり,この外停車場構內旅客乘降場擁壁として木造󠄁,石積,煉化石積又󠄂は混凝土工を施設しありしもの總延󠄂長約170,500呎の內,被害󠄂延󠄂長51,700呎に及び,これを被害󠄂種別に分󠄁類すれば變位を生じたるもの約29,700呎,罅裂部分󠄁約21,500呎,切斷を生じたる區間約8,700呎,倒潰約8,500呎なり,尙木造󠄁擁壁にして燒失せるもの約5,500呎ありたり。

貨物積卸場擁壁に在りては總延󠄂長約41,400呎に對し約12,300呎の被害󠄂延󠄂長を算し,この內變位最も多く約6,400呎を占め,罅裂約2,000呎,燒失約1,900呎,倒潰約590呎,切斷約420呎なり,その他橋梁翼󠄂壁として存在せし間知石空󠄁積のものは殆ど全󠄁崩󠄁壞,孕出,沈下等を生せざるものなし,練積のものも崩󠄁壞,罅裂,沈下等の被害󠄂あるもの極めて多し(第一表,第六表及び第九表參照)。

橋梁及び溝橋 橋梁の被害󠄂として著しきものを擧ぐれば,東海道󠄁本線馬入川橋梁,同第五相澤川橋梁,同六郷󠄁川橋梁,熱海線白糸川橋梁,同玉川橋梁,同酒匂川橋梁,北條線第一瀨戶川橋梁,同湊川橋梁等なり。

而して橋梁の被害󠄂通󠄁覽するにその多くは下部工に屬し,上部工橋桁自體が地震のために破損せしものは稀にして,唯下部工の破損又󠄂は下部工への取付け設備の强度不充分󠄁なりしため墜󠄁落して破損せしものありしに過󠄁ぎず,疊築工より成る橋臺の被害󠄂は被害󠄂區域內に在る總數2,056基に對し337基,橋脚の被害󠄂は同總數945基に對し279基,拱及び函渠の被害󠄂は同總數293箇所󠄁に對し98箇所󠄁に及べり(第一表及び第七表參照)。

道󠄁害󠄂區域內に在りし隧道󠄁總數は116本(この延󠄂長132,341呎)にして,この內損傷を蒙りしもの82本(この延󠄂長67,480呎),破損部分󠄁の總延󠄂長7,885呎に達󠄁せり。

害󠄂の大多數は坑門壁の破壞及び覆工の坑門に近󠄁き部分󠄁に橫斷せる龜裂を生ぜしものにして,東海道󠄁本線箱根第三號󠄂道󠄁及び第四號󠄂道󠄁,橫須賀線吉倉隧道󠄁,熱海線不動山隧道󠄁,同根ノ上山隧道󠄁,同下牧屋山隧道󠄁,同八本松󠄁道󠄁等その他枚擧に遑あらず,これ坑門上の土砂崩󠄁壞に際し激衝を受けたるに基因するものゝ如し。

內部の破損は土砂の上被薄く偏󠄁壓を受け易き狀態に在りしもの,或は建󠄁設工事中事故ありしもの等に多きが如く,中央本線與瀨隧道󠄁房󠄁總線土氣隧道󠄁及び北條線南無谷隧道󠄁等この類例に屬す。(第一表及び第八表參照)

建󠄁害󠄂區域內に於ける鐵道󠄁所󠄁屬の建󠄁物は,驛本屋,乘降場,貨物上家,車庫,工場及び鐵道󠄁省本廳舍並に各事務所󠄁,病院,敎習󠄁所󠄁,官舍等その棟數頗る多く,建󠄁築の用材及び樣式は多種多樣に亘り震害󠄂を蒙りたるもの51,219坪󠄁延󠄂坪󠄁以下同樣)火災に遇󠄁ひたるもの73,848坪󠄁に及べり,これを構造󠄁別に見るに木造󠄁大部分󠄁を占め,その全󠄁潰せしもの7,572坪󠄁半󠄁又󠄂は大破せしもの29,886坪󠄁,火災に罹りたるもの65,755坪󠄁にして,他の材料を使󠄁用せしものゝ被害󠄂數は第十表及び第十一表に示すが如く比較󠄁的少し,而して木造󠄁本屋の倒潰せしもの半󠄁潰せしもの及び傾斜󠄁沈下せしもの多し。

造󠄁上家の大部分󠄁は埋込󠄁柱を用ひ,屋根は裏板を用ひて亞鉛󠄁引鐵板張なりしが,東海道󠄁線の一部及び熱海線の如き震度大なる地方に在りしものは倒潰せるも,その他の地方に在りしものは乘降場沈下のため傾斜󠄁せる處ありしのみにして大なる被害󠄂なかりき。

煉化石造󠄁(石造󠄁を含む)の建󠄁物は主要󠄁なる數驛の本屋,機關車庫,工場,發變電所󠄁等にしてその內全󠄁潰せしもの130坪󠄁,大破せしもの8,012坪󠄁に及び尙燒失せしもの3,742坪󠄁ありしも新橋驛及び萬世橋驛本屋はその燒殘せる壁部の龜裂の程度により震害󠄂は頗る輕微なりし如く推知せらる。(第十一表參照)

鐵筋混凝土造󠄁(鐵骨造󠄁を含む)の建󠄁物は發電所󠄁,機關車庫及び高島驛貨物上家等にして,震害󠄂を受けたるもの3,674坪󠄁,火災に罹りたるもの383坪󠄁あり,高島驛貨物上家は全󠄁部倒潰し,その他は多少の破損を生ぜり,赤羽發電所󠄁は地盤甚脆弱󠄁なりしため建󠄁築當時基礎工に就き大に苦心せしを以て多少沈下をなせし外殆ど被害󠄂なかりき,鐵骨煉化石壁造󠄁は唯東京驛本屋のみなりしが何等被害󠄂なかりき。(第十一表參照)

鉛󠄁引鐵板葺にて鑄鐵管を柱とせる乘降場上家は7棟ありしが,その內2棟(東京驛に