思ひければ。庭に立ながら名主が今のものがたり。石佛
出來あらましまで。證拠たゝしく云聞すれども。いつわる
物おと時〻返答して苦痛はさらに止ざれば。権兵衛
もあきれつゝ。打捨て寺にそ帰りける
- 祐天和尚累を勧化し給ふ事
去程に権兵衛弘經寺に帰る道すがら思ふやう。誠
や祐天和尚かの累が怨灵のありさま。直に見て
ましと仰られし。よき折から人もなきに御供仕見
参らせんと思ひ。帰りける所に。寺の門外に意専
教傳殘應などゝ聞えし。所化衆五六人並居給
るに。かくといへばよくこそ知らせたれ。祐天和尚の御
出あらば我〳〵も行んとて。みな〳〵用意をぞせられ
ける。さて権兵衛は祐天和尚の寮に行き。かやう〳〵
の次第にて。さいわひ只今見る人も御座なく候に。
門前に居られし所化衆をも。御つれあそばし。羽生へ
御越なさるべうもやあらんといへば。和尚聞もあへた
まわず。よくこそ告たれいざ行へしとて。既に出んと
したまひしが。まてしばしと案じたまひて仰らるゝは
いかなる八獄の罪人も。時機相應の願力を仰ぎ
一心に頼まんに。うかまずといふ事あるべからず。然る所
に。再三念佛のくどくをうけて。得脱したる灵魂。たち
帰り〳〵取付事は。何様石仏ばかりの願ひならず。