彼累今朝より來て。また菊を責る故。其子細を尋
ぬれば。石佛をも立てず。我が本意をも叶へすとて。ひ
たすら菊を責候也。此上は是非なき事とて。すて置
帰り候へとも。つく〳〵此事を案じ候に。まづさし當明後日。
石佛出來仕り。方丈様へ持参の上にて。何とか申上べき
すでに此間地下中打寄。一夜別時の念仏にて。聖灵
得脱仕ると。昨日申上げたる所に。また來り候とは。ことの
始終をも見さだめず。あまりそさうなる申事と。思召
もいかゞなり。そのうへ此灵付しよりこのかた。村中の者共
親兄弟の悪事をかたられ。隣郷他郷の聞所證拠
たゞしきはぢをさらす。しかれども今までは。死さりたる
ものゝ悪事なれば。子孫の面をよごす分にして。當時
させる難義なし。此うへにまたいかなる悪事をかいゝ出し
生たるものゝ身のうへ地頭代官へももれ聞え。一〻詮義
に及ぶならば。村中滅亡のもとひならんもいさしらずせん
なき事に懸り合村中へも苦労をかけ。我等も難
義を仕ると。くどきたてゝぞ後悔す。権兵衛つぶさに
此事を聞居けるが。名主が後悔遠慮の段。一〻道
理至極して。あいさつも出がたきほどなりしが。やう〳〵に
もてなし。名主が所を立出て。すぐに菊が家に行き。
そのありさまを見てあれば。たゞ一人あをさまにたをれ
居て。苦痛する事例のごとし。権兵衛も餘りふびんに