Page:死霊解脱物語聞書.pdf/36

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彼累今朝より來て。またきくせむる故。その子細しさいを尋 ぬれば。石佛をも立てず。我が本意をも叶へすとて。ひ たすら菊をせめ候也。此上は是非なき事とて。すて置 帰り候へとも。つく此事をあんじ候に。まづさしあたり明後日。 石佛出來仕り。方丈様へ持参の上にて。何とか申上べき すでに此間地下中打寄うちより。一別時べつじ念仏ねんぶつにて。聖灵せうれう 得脱とくだつ仕ると。昨日申上げたる所に。またきたり候とは。ことの 始終しじうをも見さだめず。あまりそさうなる申事と。思召 もいかゞなり。そのうへ此れうつきしよりこのかた。村中むらぢうもの親兄弟おやきやうだい悪事あくじをかたられ。隣郷りんごう他郷たごうの聞所證拠しやうこ たゞしきはぢをさらす。しかれども今までは。しにさりたる ものゝ悪事あくじなれば。子孫しそんの面をよごす分にして。當時たうじ させる難義なんぎなし。此うへにまたいかなる悪事をかいゝ出し いきたるものゝのうへ地頭ぢとう代官たいくわんへももれきこえ。一〻詮義せんぎ に及ぶならば。村中むらぢう滅亡めつぼうのもとひならんもいさしらずせん なき事にかゝあい村中へも苦労くらうをかけ。我等もなん つかまると。くどきたてゝぞ後悔こうくわいす。権兵衛つぶさに 此事を聞居きゝゐけるが。名主が後悔こうくわい遠慮ゑんりよだん。一〻だう 至極しごくして。あいさつも出がたきほどなりしが。やうに もてなし。名主が所を立出て。すぐにきくいゑに行き。 そのありさまを見てあれば。たゞ一人あをさまにたをれ て。苦痛くつうする事れいのごとし。権兵衛もあまりふびんに