かさねしばし案して云やう。汝が父は大かた。ごくらくに在るべし。其ゆへは其方が親の死たる年月と。其日限をかんかふるに。今日極楽まいりあるといふて。地獄中にみち〳〵たる。當村の罪人ども。昼夜六度のかしやくを。一日一夜ゆるされたりといふに付き。後にそのものゝ事を尋ぬれば。念佛杢之介と聞へて。昼夜わらなわをよりながら。念仏をひやうしとして。年たけゐんきよの身となりては。朝ごとの送り膳を。中半さき分けちやわんに入れおき。たくはつの沙門にほどこすを。久しき行とし。念佛さうぞくにておはりたりとぞ聞へける。さてまた年寄庄右衛門問ていわく。汝今朝よりこのかた。答る所の罪人とも悪の輕重ぢこくの在所。そのせめの品〻までかくあきらかにしる事は。こと〴〵く其所へ行き。其人のありさまを直に見ていへるかと聞きければ。かさねこたへていわく。いなとよさにはあらず。我が住家は地ごくの入口。とうくわつといふ所に在し故墮獄の罪人をこと〴〵く見聞するなり。そのゆへはまづはじめてぢごくへおつるものをは。火の車に乗て。おつる獄の名をかきしるしたる旗をさゝせ。牛頭馬頭あたりを拂ひ。高声によばわり。つれ行おとを聞ばあるひは此罪人何なる国のなにがしといふもの。かやう〳〵の科により。只今黒縄地獄。あるひは衆合地ごく。あるひはせうねつぢごくなどゝ。いち〳〵ことわり