Page:死霊解脱物語聞書.pdf/29

提供:Wikisource
このページは校正済みです

是をしれりとて。とがの品〻しないゝあらはす時。さてはさにこそとて引退しりぞくもあり。惣じてこの日。かさねこたふ墮獄だごくの者罪障ざいしやうのしな。其に有し人を。證人せうにんにとりて。地獄の住所。受苦じゆくの数〻。あきらかに是をかたるといへども。終日しうじつのもんどうなれば。つぶさに覚へたる人なし。此外少〻せうかたりつたふる事ありしかども。たゞその中に極善ごくぜん極悪ごくあくの二人を出して。はことく是をりやくす。さてある若き者出てひける時かさねひしといきつまり。汝がおやは知らずといへば。かのものいとはらだちて云やう。口おしき事かな。これほど村中の人〻。みな親の生所をとへば。其せめの有さままで。今見るやうに答ふる所に。我か父一人しらぬ事やはあるべき。いんきよ閑居かんきよの身となりて。久しく地下へもまじわらず。人かずならでおわりしを。あなどりかくいふと覚へたり。村中一どうのせんさくに。贔屓ひいき偏頗へんばはさせぬぞよ是非ぜひ我が親のぢごくをば。聞ぬかぎりはゆるさぬぞとまなこにかどをたてひぢをはりてぞいかりける。かさね聞て。おかしきものゝいひやうかな。人はみなさだまつて地ごくへはかりゆくものにあらず。いろのゆき所あり汝が父はよそへこそゆきつらめ。地ごくの中にはらぬと云に。かの男いまだはらをすへかねてたとへいづくにてもあれかし。かほどおゝき人〻の。おやの生所をしる中に。それがし一人聞ずしてあるべきか。是非ぜひかたれとつめかけたり。其時