ばるゝ座敷も有。此外いく間も有しかども爰にてたとふる物なきゆへに。つぶさには語られず。さてまた空よりいろ〳〵の花ふるゆへに。是はと思ひ見あげたれば塔とやらん殿とやらん。光りかゝやく屋作りの。雲のごとくに立並ぶ。其間〻のきれとには。いろどりなせるかけ橋を。かなたこなたへ引はへて。其上をわたる人〻の。かず〳〵袖をつらねて。行通ふ有様。あぶなげもなきていたらく月日よりもあきらかに。つらなるほしのごとくにて。かきりなき空の氣色。何とも〳〵詞にはのべられず。かやうにいつとなくこゝかしこを。見めぐれとも夜昼昏暁の差別もなく雨風雷電のさたもせず。惣して何に付てもせわ〳〵しき事なく世にたぐひなきゆたか成所にて。有しかとぞかたりける。又問ていわく其極楽にては。何をかてにはしけるぞやと。きくこたへていわく樹に成たるだんすのやう成ものを。あたへられしまゝ。たべたりと。又問ていわくその味はいか様にか有しと。きく答えへていわく。爰にてくらはぬ物なれば何ともことばには語られぬが。今に其気味は口のうちにのこりたり誠にたくさんに有しものを。いくらもひろひ來て。たれ〳〵にも一つあて成共。とらせんものをとわきまへもなくかたりけり。其中にさかしきものの有ていふやうは誠にごくらくの事は。阿弥陀如來因位のむかし。大慈