Page:死霊解脱物語聞書.pdf/13

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はしりき。の女に近付ちかづかんとあらそひゆくに。はやしきりかぶさながらつるぎにてあしをつんざき。あるひはゆんの。かやのにさわれば。はだへをやぶり。しゝむらをけづるまたそらよりはかぜのそよふくに。つるぎはたへずおちかゝつて。かふべをくだきなづきをとをすゆへ。五体ごたいよりながす事いづみのわき出るごとく。みち木草きくさしほにそみ。谷のながれもそのまゝ。あかねをひたせるに同じ。かくからくしてやふ行付くと見れば。あらぬ野山の刀のこずゑにうそぶき。さきのごとく。人をまねきたぶらかす。かやうにおとこは女にばかされ。おふなはおのこにたぶらかされてたがひにやいばにかけ。かばねに血をそゝくを見れば。かはゆくもあり又おかしくも有しといへば。又とふていわく。さて其つるぎやいばは。なんぢにはたゝざるや。其外そのほかには何事か有しといへば。菊こたへていわくさればにやかのつるぎ。我にかつてあたらず。しげれる中をわけて行くに。道のかやも外になびきそらよりふるやいばも。我が身にはかゝらず。すべていかなる故やらん。おそろしき事すこしもなかりき。さて其山をすぎて。びやうたる野原のばらけば。向にあたつてけつかう成。門がまへのいゑあり。番衆ばんしゆとおぼしき人よき衣装いしやうにて。あまたられしに近付ちかづき。事のやうをたづねければここ極楽ごくらく東門とうもんおほせられし。ゆかしさのまゝ。さし