行ひて聞べしと。村中の男女あつまり。いろ〳〵の物語する中に。先ある人問ていわく。菊よ此比かさねにさそわれて。何国にか行きし。又其かさねといふものゝ姿は。いかやうにか有しといへば。菊答ていわく。されば累と云女は。まづいろ黒くかた目くされ。鼻はひしげ。口のはゞ大きに。すべて顔の内にはもがさのあと。所せきまでひきつり。手もかゞまり。あしもかたみぢかにして世にたぐひなくおそろしき老婆成しが。折〻夢現に來り。我をさそひ行んとせしか共。あまりおそろしくて。いろ〳〵わびことし居たる所に。有時又來て是非をいわせず。終に我身をひぢさげはしり行しが。刀の葉の木かやのしげりたる山のふもとに我を捨ておき。其身はいづ地ともなくきへうせぬといへば。又有人問ていわく。それは正しく剱山ぢごくとやらんにてあるべし。いかなる人やのぼりつらんといへば。菊こたへていわくさればとよ。おとこ女はいかほどゝいふ数かぎりなき其中に。たま〳〵法師なども。うちまじりて見ゆめるが。ある女のうつくしく。やさしげなるかほつきし。色よき小そでをうちはをり。少し谷尾をへだてたる向ひのかたの山ぞわにて。うちわさしかざし。ゑもしれぬ事をいふてまねく時。老たる若きおのこどもあるひは法師まじりに。心もうか〳〵しく。そらになりて。我さきに