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明治十五年

水邊夏草

夏草の茂れるかげも川水にうつるを見ればすゞしかりけり

夕立

たかまやま空にとゞろくいかづちの聲にきほひて夕立ぞふる

嶺夕立

村雲のおほふと見しは夕立のみねより嶺にかゝるなりけり

海邊夕立

かきくもり降るゆふだちに荒磯の波もしばしは音なかりけり

初秋日

いつのまに秋は來にけむあまの原夕日のかげもすずしかりけり

故郷萩

ふるさとゝなりし都は萩の戸の花のさかりもさびしかるらむ

波間月

久方の空ゆく月も海原の波間にかげはうきしづみつゝ

海上月

沖つ波なるとの海のはやしほにやどり定めぬ月の影かな

海上待月

山もなき青海原の波の上に待てどもおそし秋のよの月

月前松風

窓のうちにさし入る月のかげふけて軒端しづかに松風ぞ吹く